『Auro-3D入門』<実践編>(No.7 グランドスラム邸)-ATMOS配置のSPで、Auro-3Dを聴くとどうなる?
学園祭の振替休日を利用して、グランドスラム邸に行って参りました。もう何度目かな?結構、自宅から時間がかかるんですけど…(笑)。
今回は、実は「お招き」を受けまして、「泊りがけで来い」と宿泊先まで用意してくれて手ぐすね引いて待っておられました(「お招き」というより、「招集」か?=笑)。というのは、例の、Dirac Liveの新技術、ART(Active Room Treatment)のセッティングに来い、というわけで(汗)。これは現状、StormのAVプリを持っている方だけの特権!ですから、同じAVプリを持っている(ただし、プチ自慢しておきますが、彼のは16ch版、私のは32ch版!)者同士としては、「早くART仲間が欲しい」(ここまでは「一人ぼっち」だったので・・・)こともあって、「出張要請」を受け入れたというわけです(どなたのところにも呼ばれたら必ず行く、というほどヒマ(笑)ではないので、念のため=汗)。
まあ、実は私の方にも訪問の狙いはあって、それは、何と言っても、「Auro-3DとAtmos用に、それぞれ専用のSP群を第二層に配置したから、そのキャリブレーションをしてから比較試聴どう?」という、イマーシブオーディオファンなら誰もが興味を持つテーマが用意されていたのです。
グランドスラム邸にはこれまで4回ぐらい訪問しており、その度に、詳細な訪問記を旧Philewebに書きました。例えばその一つとして文章だけの燃え残り(笑)が以下にあります。
https://philm-community.com/auro3d/user/diary/2021/12/18/9817/
そのシステムの概要については、もう繰り返しませんが、この前のフォッサマグナツアーの時の写真やデータが以下にあります。
http://koutarou.way-nifty.com/auro3d/2023/08/post-29b26d.html
ですから、<実践編>としてはあまり新味がない(笑)のですが、今回の訪問時には上記から、1.サラウンドバックを無くして、「グランドスラム」で第一層は5chを形成(ただし、この構成は「期間限定」だそうで、来年4月以降はセンターは「グランドスラム」ではなくなるそうですから、<LCRそろい踏み>を体験したい方はお早めに!)。その分、LCRとLPとの距離を1Mぐらい離した(5.2.5.1)2.Auro用の第二層・三層のSPをすべてSignatureモデルにした(?)―という大きな変更点がありました。もちろん、最大の変更点は、ATMOS用の4台の第二層のSP(ATMOS用語でいうところの、トップフロントLRとトップリアLR)と切り替えて、Auro-3D(Matic)用の第二層・三層用の5台のSP(ハイトLCR、サラウンドハイトLR)を鳴らせるようにした点です(Jeffのパワーアンプを取り付けたそうです。機種は?グランドスラムさん補足して!!!)。もちろん、これらのSP群は各フォーマットが定める文法通り、ATMOS用は「真下」に向けて、AURO用はLP頭上に向けてセッティングされていることは言うまでもありません。
<真下を向いている805はATMOS用、LPに向かっているのがAuro用の805>
ここで、念のため強調しておきたいのは、<普通は・並の人は(笑)>ハイトLR・サラウンドハイトLR(FOR AURO)と、トップフロントLRとトップリアLR(FOR ATMOS)は、同じSPを共有しているはずです。私の知る限り、ここにわざわざ別々のSPを配しているのは、他にはDonguri邸と、WOWOWのスタジオだけです。
ただ、Donguri邸は二度ほどお邪魔したことがありますが、AURO用とATMOS用のSPが全く異なるメーカー・方式であるのに対し、グランドスラム邸はバージョン違いではあるにせよ、同じB&Wの805であるという点が優れています。つまり、Donguri邸は、同じ曲をAUROシステムとATMOSシステムで聴き比べようとしても、比較の対称性に乏しいため、出音の違いが、フォーマット(方式)の違いのせいなのか、SP自体が異なるからなのかが残念ながら正確には弁別できません。
この点、両フォーマットの違いを研究する上で、グランドスラム邸は格好の実験場だというのが、私が今回「釣られた」最大の理由でした(笑)。
<Auro-3Dの文法通り、第一層のSP群の垂直上にAuro用の805を設置してある>
初日の到着後、すぐにキャリブレーションを始めたかったのですが、グランドスラムさんは前日までSPを理想の位置に動かすのにかかりっきりだったらしく、肝心のStormのAVプリの準備(ファームウエアのアップデート)も、Dirac Liveの準備(最新ソフトのダウンロードと、ARTのライセンスの購入)も全く(笑)してない(泣)。
つまり「完全おまかせ状態」だったので(汗)、まずそこから初めて1時間。ようやくAuro-3D配置からキャリブレーションに入ると、Bass Control(DLBC)まではできたのですが、ARTが構成できない。理由は、測定後に「!」のサインが出る、つまりこれは「適正に測定できていないのでやり直せ」ということ。で、その後何度やってもうまく行かない。そうこうしているうちに宿のチェックインタイムが迫ってきたので、「明日の朝早くからもう一度」ということになって、一旦切り上げました。
宿では色々「面白い話」があったのですが、流石にそれは割愛(笑)。翌朝、再度取り組みましたが、同様にエラー表示が出て進まず。気分転換に(汗)と思って、ATMOS用のSP配置をConfigureして、これでキャリブレーションを開始してみたら、なぜかこちらはスムーズに進み、ATMOS用のDLBCとARTの補正Setを作ることができました。その後、ARTとDLBCの聴き比べを念入りにしたのですが、この部分はグランドスラムさんから別に詳しく報告があると思います。この時点でとりあえず、Auro-3D(Matic)用とATMOS用のDLBCは完成したので、ART同士でないのは少し残念でしたが、この二つで私は、今回の自分の「問題意識」による実験に進みました。
まずは、<実践編>らしく、お部屋のスリーサイズを。W:5.3M、L:7.9M、H:3.9→2.9M(勾配天井)。音響のプロに設計・施工させたという素晴らしい音響特性(たぶん=笑)と防音性能・剛性を備え、さらに「マイ電柱」でダメ押ししているという、個人のリスニングルームとしては<やり尽くしている>環境です(汗)。
<フロントハイト群とVOG用のJeffのデジタルパワーアンプ(?)2台をスクリーンケースの上に設置>
次に、前回のフォッサマグナツアーで、グランドスラム邸に来た時に感じた「問題点」について。さすがに、「総括」には「いい点」しか書きませんでしたが、課題曲の中でグランドスラム邸において「課題」を残したと(他の参加者はともかく)私が感じていたのは、『New Year’s Concert』でした。これはコメント欄にチラッと書いたのですが、この中の少年少女の合唱が入っている曲において、バルコニーにある合唱の高さとオケの高さにあまり差がない(オケが高すぎる)という問題でした。
その原因は、巨大で背の高い「グランドスラム」が、LPに近すぎたのです。ツアーの時には、グランドスラムさんはかなりサービス精神を発揮したらしく(笑)、LPを地上5chSPからほぼ等距離にしたそうです。つまり、以前に私がお邪魔した時よりLPを前に出して、LCRとの距離を縮め、その代わり、斜め後ろに置いたサラウンドとの距離を稼いだというわけです。その距離3M。
「等距離原則」はサラウンドのSP配置の王道の文法ではありますが、グランドスラム邸では一つ大きな問題が。
<サラウンドSPと、サラウンドハイト(Auro)、トップリア(ATMOS)>
こういう巨大なSPは、見かけ上の「点音源」とみなせるまでLPから離すのが鉄則で、でないと、音源が「縦長」になってしまいます。いわゆる、「近接効果」というやつです。拙宅のSonetto VIIIクラスであれば3Mで十分でしょうが(事実、拙宅は約3Mです)、あの巨大な「グランドスラム」では3Mでは「近接効果」が目立ってしまっていました。このトレードオフにグランドスラムさんも気が付き、それを今回は以前のポジションとほぼ同じ距離となる、4Mのところに戻したとのことでした。「等距離」原則は、AVアンプのDelayを使って誤魔化すことで妥協したそうです(笑)。
その効果はてきめんでした。ちゃんと、合唱がオケよりやや上方に定位していました。「合格です」(笑)。もちろん、「その代わり、LPに近くなったサラウンドからの近接効果が強まるだろ?」というのは論理的にはあり得る指摘ですが(汗)、後ろ側にはアンビエント音が中心で、定位させる音像がない音源がほとんどなので、こちらは私は気になりませんでした(拙宅もサラウンドのSonetto VIIIからLPは2M弱しかない)。やはりAuro-3D(Matic)は「フロント重視」のフォーマットですから。
さて、ここからは<実践編>的な内容を離れて、「実験レポート」です(笑)。
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問題意識
今、最も普及しているイマーシブオーディオフォーマットであるATMOSと、我らが(笑)Auro-3Dは、特に第二層に於いて、両フォーマットが定義する「正しい」SP位置・角度が大きく異なっている。普通の家では(笑)、このどちらかのフォーマットのSP配置を選んでセッティングしており、いったん天井や壁に固定した第二層(&三層)のSP群を動かすことはできないのが一般的だろう。しかし、ソースはどちらも簡単に入れ替えて再生することができる。
そこで、1.ATMOSソースをAuroシステム配置で再生した場合、2.Auro-3DソースをATMOSシステム配置で再生した場合-は、各フォーマットの規定する「正しい」SP配置で再生した場合と、どの程度音質・音場・音像が異なるのかを検証してみたい。
方法論
まず、ATMOS配置とAuro配置それぞれに対してキャリブレーションを行い、Stormに異なるセッティングデータを保存した。これにより、両フォーマットを切り替える作業は、単純にSPを切り替えるだけではなく、両SP位置でのキャリブレーション済みの音場補正環境を適用している。このため、両フォーマット間を切り替える際に、LPからの第二層への距離の違いによる位相の狂いや、再生SP数が異なることによる、音情報の欠落が発生しないようになっている。補正ソフトは、両者ともDirac Live Bass Control(DLBC)を使用し、補正範囲、SWとのクロスオーバー値などはすべて同一にしてある。
そのうえで:
1.ATMOSソースである、Pink Floyd『狂気』BD*を、ATMOS配置とAuro配置で聴き比べる。
*このソースは、7.1.4で録音されており、グランドスラム邸では、ATMOS配置の場合は、5.2.4で再生される。これをAuro配置で再生する場合も、「Auro-Matic」では再生していない(StormのAVプリはATMOSのオリジナルフォーマットを変更できない)。つまり、Auro配置も同様の5.2.4(HCとTOP無し)で再生される。
2.Auro-3Dソースである、『Lux』BD*を、Auro配置とATMOS配置で聴き比べる。
*このソースも、7.1.4で録音されているが、Storm のAVプリはAuroフォーマットのソースはすべて拡張モードで再生するため、グランドスラム邸では、5.2.5.1で再生される。これをATMOS配置で再生すると、5.2.4となる。
実験結果
1.『狂気』-比較試聴に使ったのは、On the RunとTimeの冒頭のチャイムの部分。On the Run冒頭の、シンセサイザーで合成された<シャープな風切り音のようなもの>が、Atmos版では上空の第二層を回るように収録されているのだが、ATMOS配置の方が、「回る半径が大きい」。写真にあるように、グランドスラム邸では、Auro用のLRの「フロントハイトSP」の位置より、ATMOS用の「トップフォーワード」LRの方がLPに近い。つまり物理的距離はATMOS用のSPの方が近いのにも関わらず、ATMOS配置による再生の方が、上部で「遠く」に位置すべき音が、「正しく遠い」位置にあるように聞こえる。逆に言えば、Auro配置でATMOS音源を聞くと、「全体的に前に出てくる」。同様の感覚は、爆発音の後に、<走り回る足音>のパートでも確認できた。
そして、もう一点顕著な差を感じられたのは、<空港ロビーでの女性アナウンス>のパート。英語の発音がはっきり聞こえるのはAuro配置の方なのだが、「空港らしさ」(何を言っているのか、良く聞こえない感じ=笑)をよく醸し出しているのは、ATMOS配置の方であった。つまり、これもAuroより「遠くに、かすかに」聞こえるのである。
しかし、肝心のこのパートのPink Floydのメンバーによる「演奏」に注目すると、印象が変わってくる。Auroの方がとにかく全体に前にグイグイくる感じなので、シンセサイザーやドラムの音などはこちらの方が迫力を増す。これは完全に好みのわかれるところであり、私はATMOS配置の「効果音の巧みさ」が気に入り、グランドスラムさんはAuro配置による「音楽の迫力」に軍配を上げた。
2.『Lux』-比較試聴に使ったのは、冒頭の曲。私の大のお気に入りである(笑)。まずはAuro配置で聴かせてもらう。実はこの曲は以前も(何度も?)グランドスラム邸で聴かせていただいている。しかし、これまではSP配置がATMOS用しかなく、つまり、第二層のSPはすべて真下を向いている、アレ、である(汗)。その時の印象に比して(そしてもちろん今回も同じATMOS配置によるこのAuroソフトの再生に於いて)、「高さ感」が格段に向上した。グランドスラムさんが拙宅にお見えになると、「高さ感があって、神々しい音場感」といつも褒めてくださるのであるが、今回のAuroセッティングでグランドスラム邸の音場もかなり<いい線>に行ったと思う。
そしてもう一つ、格段の差が付いたのが、コントラバスとオルガンの低音再生である。これは教会録音なので、(前面の)壁全体から(実際、パイプオルガンの低音出力は、床から天井まであるパイプの共振音)<面で>音が迫るのがRealなわけだが、Auro配置・システムで再現するこの音場感と音の迫力が、ATMOS配置では全く出ていない。前方上方の音空間における低音が「さみしい」のである。さらに、1で書いたように、ATMOSだと高域の音が「遠くなる」。この曲は女性(少年少女?)のソプラノ合唱が主旋律を担当するのであるが、ATMOS配置でこの曲を聴くと、先の低音不足と相まって実に「そっけない」(笑)感じとなり、「感動させる力」が落ちるのか涙腺が全く緩んでこなかった…。
ご存知のように、この2LのBDは、7.1.4によるATMOSソースも収録されているが、今回はこれは聴かなかった。理由は、時間が無かったこともあるが、これはすでに実験済みで、自分の中でははっきりと勝負がついているからである(お手持ちの方はすでに自分のシステムで実験済みであろうし)。やはり48kHzのATMOSフォーマットと、96kHzのAuro-3Dフォーマットの差は、それが11ch分になるからか、埋められないものがある(そもそも、「音質」の差があり、ある意味Fairな判断ができない)。
考察
今回の二つの音源<『狂気』(ATMOS)、『Lux』(Auro-3D)>を、Auro用とATMOS用のSP配置で聴き比べた結果を総括すると、この二つのSPレイアウトの違いは、一見では、定義されているものとないものの違い、つまり、ハイトセンター・TOP(VOG=第三層)のあるAuro-3D、トップミドルLR(第二層)のあるATMOSに注目が行きがちであるが、私の結論では、それ以上に、第二層に配されているSPの「向き」の違いが大きいような気がする。
ここでもう一度整理すると、ATMOSでは、第二層の6台のSP(一般的な民生用では、トップフォワードLR、トップミドルLR、トップリアLRの6台が最大)はすべて「真下」に向けるよう指示されている(天井に埋め込む、シーリングSPを推奨=Donguri邸はこれ)。一方のAuro-3Dは、第二層の5台(フロントハイトLCR、サラウンドハイトLR)をLPで起立した時の頭の位置に向けるように指示されている。そして、「普通の人」(笑)は、トップフォワードLR=フロントハイトLR、トップリアLR=サラウンドハイトLRとして、ATMOS用なのかAuro用なのかはっきりさせずに、どっちつかずのいい加減な(泣)設置をしている人がほとんどであろう(特にデノマラとヤマハのマニュアルはあいまいな書き方がしてある。ご自分の第二層のSP群をATMOS用にしたい方はDolbyのHPを、Auro用にしたい方は、このブログの左上にある「Auro-3Dマニュアル」をご覧いただきたい)。
いうまでもなく、SPというのは、正面軸上(ツイーターが耳の位置の高さ)で聴くように普通は設計されている。これは、音は球状に拡散するため、軸上から離れれば離れるほど、音圧が下がっていくからである。さらに、音波は高域ほど直線性が強く、低域ほどより球状に拡散しやすいため、軸上から外れて聴くと、高域が低域に比してロールオフして聞こえることはよくご存じのことだろう。スピーカーの真横で聴けば、ほとんど中低音しか聞こえない(笑)。
ということはつまり、ATMOSの指定のスピーカーセッティング(特に「向き」がLPに向いてない点に注目)では、直進性の強い高域は、LPに於いては、直接音が少なく、反射音が多くなり、そして減衰するわけである。特に高域で反射音が多く、音が小さくなるというこの特徴が、今回の試聴で、私が「遠くの音は、ATMOSの方がより遠くから聞こえる」ように感じた原因と考察するのはある程度合理的であろう。
音楽用途をメインとして設計されたAuro-3Dに対して、ATMOSは映画用をメインとしているわけであるが、ATMOSは「遠くの雷鳴」のような効果音はAuro-3Dより出しやすいようだ。この特徴を活かせば、今回私が『狂気』で聴いたような、空間に散らばる星を眺めるような(まさに、『STAR WARS』の世界!)音場表現には優れるはずである(今回は時間が無くて聴けなかったが、音楽でも、恐らく、『クリムゾンキングの宮殿』のATMOS版などは非常に魅力的に再生するに違いない)。
ただ、こうした「映画的な」手法でエンジニアリングされた一部の音楽を除けば、Auro-3Dの、フロント6台のSPが全てLPに向いていることによる「平面波効果」によると思われる、奥行き感と同時に押し出し感・実体感に優れる表現は、まさに音楽向きだといえよう。つまり、今回確認したように、Auro-3D(Matic)の音の魅力を最大限に引き出したければ、第二層のSP群の「向き」はとても重要であることを強調しておきたい(真下向きの第二層のSP群で、第一層のSP群との空間に「平面波」が正しく形成できるとは考えにくいため=笑)。
逆に、ATMOS映画の効果音を十全に堪能したい場合は、指示通りに第二層のSP群は「真下に向ける」べきであることがよく分かる結果となった。
まさに、「二兎を追う者は一兎をも得ず」である。
参考文献(笑)
https://philm-community.com/auro3d/user/diary/2020/08/17/9758/
ほか
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