『Auro-3D入門』(準備編)

2024年11月14日 (木)

センタースピーカーに関する実験結果に対する入交氏の考察を伺ってきました!

先日、関西の某所に於いて、Tomyさんとともに入交ご夫妻とLunchを共にする機会に恵まれました。「なぜ、関西で?」はいずれ明らかになることですので、今は内緒(笑)。

 

奥様とは初めてお目にかかりましたが、さすがに「いきなりオーオタの、Men’s Talk?=ややジェンダーバイアス入ってます=汗=はまずいだろう」と、最初は世間話をしていたのですが、昼間っからビールを飲んじゃったこともあり(だって、お好み焼きですから!)、また、エンジニアご出身のTomyさんは入交さんと初対面だったため、彼も「溜めに溜め込んでいる」(笑)技術的な質問が山ほどあるのは明らかだったので、やはり始まってしまいました(汗)。

 

驚いたのは、奥様も話についてくるどころか、はっきりいって、「Auro-3D友の会会長」(笑)の私よりお詳しい(大汗)。Partnerの仕事の意味と意義をよく理解されておられるようで、微笑ましく、羨ましいカップルでした!

 

さて、ここで終わると「単なる日記」になってしまうので(汗)、このブログの趣旨に鑑み、そこで盛り上がった数多くのAuro-3D関連話を紹介したいところですが、何分、現場の最先端におられる方なので、「これは、まだ公表はできないのですが、実は・・・」というお話ばかり(泣)。ただ、その中で、最近伊豆の拙宅で行った「実験結果」を私がご報告し、それに関する考察をいただきましたので、これなら簡単に紹介しても問題ないでしょう。

 

その「実験」というのは、先の記事で、『カルメン』の2種類のBDに於いて、改めて「センターSP」の役割について紹介しましたが、その際に、レス欄でのやり取りの中で、「まともなセンタースピーカーありのマルチソフトを聴いた経験がない」とCmiyajiさんが言われるので、前回記事にした「ツイーター用のパワーアンプ探し実験」で伊豆の拙宅にお越しいただいたついでに、センタースピーカーの有無に関する「比較検証」の場をセッティングして差し上げたのです。

 

「実験」の概要は以下の通りでした。

 

使用ソフト: 映画版5.1ch (アリアは、Cのみに収録されている) VS Live5.1ch (アリアは、Cに約6割、LRにそれぞれ2割ずつ、音量が割り当てられている)

 

SPレイアウト: Sonetto VIII 5ch構成(SWなし、Dirac Liveなし。ユニット間の音圧と距離補正のみチャンデバでしてあるもの) VS Sonetto VIII 4ch構成(Cなし。同上)

 

被験者:CmiyajiさんとK&Kさん

 

いうまでもなく、4chにおいては、Cへの出力は、AVプリの方でLRSplitされて、Virtual Centerとなるよう、Configureしています。

 

実は今回の被験者のお二人には共通点があり、それはお二人共マルチシステムはお持ちだが、ずっとCレスで運用されて聴き続けておられる、という点。つまりいわゆる「Cレス派」(笑)で、恐らくセンタースピーカーの有用性についてはやや懐疑的なスタンスをお持ちのお二人ではないかと(汗)。CmiyajiさんはAuro-3D対応をしていますが、K&Kさんはしていないという違いはありますが、今回は、Auro-3Dソフトを使っていないし、Auro-Maticも使わない、Native再生で、アリアパートに絞って比較試聴してもらいました。

 

「Cアリ派」の私にはやや緊張の実験でしたし(笑)、お二人がどうお感じになったかは、「Cアリ派」によるバイアス抜きでご本人自身からの詳細な報告に譲るべきで「お二人の真の心の内」まではわからない(汗)のですが、ただ、K&Kさんからははっきりと明示的に、「Live版ではCアリのほうが奥行き感が出ていて、こちらのほうが断然良かった。Cなしだとアリアが前に出てきて遠近感が全く損なわれていた。一方、映画版では、両者の違いはあまり感じなかった」とのコメントを頂きました(私はオーナーですからとっくにこの実験は何度もやっており「いまさら」ですが=汗、前者については全く同意です。後者については「オフセンター」に移動した場合の聴こえ方に大きな違いがあるため、Cレスだと極端に言えば「微動だにできない」緊張感がありますね。Liveの場合は、Cアリなら多少「オフセンター」でも楽しめます)。

 

このK&Kさんの感想を「お好み焼きとビール」の席で(笑)、入交さんにご報告し、「なぜこのように違って感じるのか?」を伺ったというわけです。

 

これに対し、我が師匠(笑)、入交さんは、「Live版の方は、LCRが揃っていることを前提に録音エンジニアが収録をしているため、LCおよび、CRの間にも音の空間情報が入っている。故にこのソースを正しくLCRで再生すると、立体感が出る。一方、同じソースをCレスで再生すると、Cの情報がSplitされて、LCCRの情報が一体化させられる。その際にLCおよび、CRの間に存在する音の空間情報が失われてしまうので、平面的な再生となってしまう。もちろん、SLRにも空間情報の音は入っているのだが、それだけでは豊かな立体感を出すことはできないのです」と。

 

さすが、音響工学博士! 十分論理的で、私のようなど素人でもよく理解できましたし、常日頃、入交さんが、「Auro-3Dに於いて最も重要なSPはセンター」と繰り返し強調されるわけが納得できました!

 

ちなみに、入交さんって誰?って方は、「入交英雄」でググっていただければいろいろ出てきますが、Auro-3D録音エンジニアの日本での第一人者のお一人です。例えば、ここを見てください(以下の写真の引用元)。

2023年2月25日 (土)

『Auro-3D入門』<準備編>(5. スピーカー設置に際する注意点)

5. スピーカー設置に際する注意点

 

さて、ここまでで、部屋を決め、Auro-3Dの構成(レイアウト)を決め、使用するスピーカーを決めてきました。

 

ここでは、その揃えたスピーカーを、いざ部屋に設置する際に気を付けるべき注意点について整理していきたいと思います(『マニュアル』3.3「スピーカー配置」(p.18)参照。SWの置き方については前章で触れたので、ここでは繰り返しません)。はっきり申し上げて、「部屋」と「SP」とその「設置方法」までの準備段階で、出音の70%は決まると私<Auro3D>は考えておりますので、今回はこの準備段階の総仕上げということになります。

 特にAuro-3Dは、「チャンネルベース」で録音がされているので、各チャンネル(=SP)が、録音スタジオと基本的には同じ位置関係に無いと、録音エンジニアの意図した場所に音像が定位しません。つまり、「位置情報」データを送ってAVアンプに計算させる「オブジェクトベース」のATMOSなどより、スピーカーの設置位置は厳密に守る必要があることに留意してください。

 

ここで「チャンネルベース」と「オブジェクトベース」による空間上の音像定位の作り方の違いを簡単に整理しておきますと、「チャンネル」というのは実際のスピーカーとそれに対応した「独立の音源の数」の単位のことです。例えば2chステレオ再生というのは、スピーカーが2台(ここでは、SPを重ねたりして同じ音源からの音を複数台から同時に出力するものも1台=1chとカウントする)で、左右のLRにそれぞれ「別の独立した」音が出力されています(だから2チャンネル)。ボーカルなどは普通、LRのど真ん中、つまり一見スピーカーの無いところから音が出ているように聴こえるよう、録音エンジニアは「設計」しています。つまり、ボーカルの場合はLRに「ほぼ」同じ音を同音量で配置しているということです。これが「チャンネルベース」による「定位」の仕組みです。ただ、実際にボーカルがLRの「ど真ん中」から聴こえるようにするには、LLP、LPとRの距離がぴったり同じになり、さらに、LとRのSP周辺の環境や、LPまでの間の環境(壁やソファ・カーペットなどによる反射や吸音)が理論的には「全く同一」でなければなりません。それゆえ、「チャンネルベース」音源を録音エンジニアの意図通りの「定位」位置で聴くには、録音エンジニアがその音源を作成した時と同じ配置(=普通は『マニュアル』通り)に再生側もSPを置かなけばならない、という理屈となるのです。

 

一方の「オブジェクトベース」というのは、分りやすく言えば、録音エンジニアが「ここにフルート、ここにオーボエ」(これらがObject)と、<位置を指定する指示書>を「音」とは別に作って送り出し、「こっちが指定した位置からリスナーが聴こえるように、そっちで考えて工夫しろ!」と出力側(=AVアンプ)に命令するいうものです。ですから、「オブジェクトベース」の音源を再生するAVアンプは非常に「賢い」(笑)必要があり、映画などでは「オブジェクト」音源(=例えば飛行機のエンジン音)が動くわけですから、AVアンプはものすごい計算をし続けなければなりません。

 

「オブジェクトベース」のメリットは、スピーカーの位置や数がある程度「適当」でも(笑)、その位置をAVアンプが把握していれば、手持ちのSPを総動員して「何とか工夫して、録音エンジニアの指示通りの場所から音を出す」ことができることです。つまり純粋に理論的に言えば、立方体の部屋の場合、すべてのコーナー8カ所にSPがあれば「オブジェクトベース」なら「空間のどこにでも自由に音像を定位させられる」と言えます。しかしここで注意すべき点は、こうした芸当が可能になるためには、「AVアンプが全SPの位置=高さや角度など=を把握している」ことが必要なはずで、このようなSPの3次元的な位置を把握する機能を持つAVアンプは、私<Auro3D>の知る限りでは2023年3月時点では、数社しかないはずで、それゆえ、ATMOSと言えども、ある程度、「SPの設置位置を指定」せざるを得ないのが実情です(もちろんこれは、ATMOSも実はAVアンプの負担を考慮して「チャンネルベース」を併用しているためでもあります)。

 

音楽再生フォーマットとしてみた場合、「チャンネルベース」の「オブジェクトベース」に対する優位性は、AVアンプ側でのデータ処理の負担が少ないため、データ量を増やせる=音質を上げられることです(オブジェクトベースの場合は、データが大きいと位置決定・移動の演算・処理に時間がかかり過ぎて対応できなくなる)。市販されているBDには、Auro-3DATMOSの両方のフォーマットで収録されているものがありますが、Auro-3Dが「96(または192) kHz/24bit」という表示になっているのに対し、Atmosは、「48kHz/24bit」と表示されているものが多いことに気がつかれたでしょうか。これは、デジタル的にAuro-3DATMOSに比して1チャンネル当たり2-4倍のデータ量を割り当てているということです。つまり、理論的には2-4倍音質が良いという意味です。私<Auro3D>が、「Auro-3Dは音楽再生向きだ」と主張しているのは、これも一つの理由です。

 

5-1. 垂直配置

 

Auro-3DSP配置図を、3Dフォーマット市場では最も普及しているATMOSのそれと比較すると、その最大の違いは、「垂直に配置したスピーカーペアで形成される独自のスピーカー配置」(『マニュアル』p.7)にあります。

 

以下のリンク先は、Dolby ATMOS7.x.4chのレイアウト図です。

https://www.dolby.com/ja/about/support/guide/setup-guides/7.1.4-overhead-speaker-placement/

これをAuro-3D7.x.5.1chのレイアウト図(『マニュアル』p.17 図2)と見比べてみてください。

 

ATMOSでは、第二層の4台のSP群(ここではOverhead Speaker)が、第一層の7台のSP群と、上から見た図で全く重ならない位置関係にあるのに対し、Auro-3Dでは、第二層の5台のSP群の<真下>に第一層のSPが完全に重なっているのが分かると思います。つまり、Auro-3Dでは、第一層の主要SP5台(LCRLRs)のそれぞれの垂直上に、ハイト群を設置することを求めています。これは、次節で確認する仰角(LPの頭の位置からハイトSP群を仰ぐ角度)とともに、第二層のSP設置位置のAuro-3DATMOSの大きな違いです。

 

では、Auro-3Dが第一層と第二層を「垂直配置」にすることを求めるのはなぜなのでしょうか。

 

ここで、第3章で、第一層の5chまたは7chSPレイアウトに際し、「LPから同心円状の等距離に置くのが望ましい」ということを覚えておられる注意深い読者は、「この原則がなぜハイト群には適用されないのか?」と疑問に思われるかもしれません。つまり、例えばCHCだけを考えても、この二台をLPから「同心円状=等距離」に置くのであれば、HCCの真上ではなく、少しLPに近づかなければならないはずです。要するにLPを中心とした「球」をイメージし、そのボールの上にSPを配置していくのでなければ、LPから「等距離」とはならないからです。

 

逆に言えば、Auro-3Dが要求する、「第一層のSPの真上に第二層を」、という意図は、「第二層のSP群を、第一層の各SPよりもおのおの若干LPから遠くなるように配置せよ」、となっているわけです。

 

これは、Auro-3Dが、「先行音効果」(ハース効果ともいう)と呼ばれる音響認知上の理論を利用して、その独特な音場感を創出しているからだそうです。これは、簡単に言えば、同じ音量の、全く同じ音が2か所から出た場合、その2か所が聴き手からほぼ等距離にあれば、その二つの音源の「真ん中から」音が出ているように感じるのに対し、距離が若干ずれている場合は、「近い方の音源からのみ音が出ている」と人間は認知する(かなり離れている場合は別々の音と認知する)ということだそうです(詳しくは、https://go-sapporo.com/2020/06/05/nti-audio_haas-effect/)。

 

Auro-3Dは、我々がこれまで聴き慣れ、また見慣れてきた2chステレオに比して、上方にSPがたくさんあるため、「音像が上ずれするのではないか」と一見感じると思います。しかし、これは、特に普段2chステレオで聴きなれた曲を、Auro-Matic1311ch化するとすぐわかることですが、2ch再生時にステージ上にいた歌手が、Auro-Maticに切り替えたからといって、「宙に浮く」ことは決してありません。音像の定位位置は2ch再生時と変わらない場所にあるが、全体的に立体感が増している、と感じると思います。しかし、この時ハイトSPから音が出ていないわけではなく、耳を近づけてみれば、第一層のSPと同じ音が出ているのが分かるはずです。

 

これは、前方からの音についていえば、LCRHLCRより、若干LPに近いために、人間の脳では、先行音効果により、「LCRから音が出ている」と認識されるからです。それゆえ、例えばボーカルの口の高さは第一層のSPだけで再生した場合と何ら変わらなく感じる一方で、若干遅れて耳に届く同じ音が、奥行き感などの立体感を脳に感じさせるわけです。

 

繰り返し書いていますように、Auro-3Dは音楽再生に適したフォーマットであり、またAuro-3D以外のフォーマットで録音されたもの(2ch5.1chなど)を、Auro-MaticというUpmix技術により、「疑似Auro-3D化」しても、オリジナルの音像感を変えることなく、音場感だけを豊かにすることができるのは、この第一層と第二層のSP「垂直配置」にその重要なカギがあるということなので、是非この点に留意していただいて、第二層のSP群の設置位置を検討してください。

 

5-2. 仰角とバッフル面の向きと縦置き原則

 

まずこれは、『マニュアル』の3.3p.18)に明示的に書いてあることなのですが、結構見逃してしまいがちな点ですので、この『入門』でも念押しをしておきたいと思います(笑)。

 

「仰角」というのは、先にも書きましたが、LPからどのぐらい上方にハイトSP群を設置するかの角度を示しています。具体的な推奨値については、『マニュアル』21ページに「表3」としてまとめてありますので、そちらをご確認ください。

 

ここで確認しておきたいことは、この角度計測上の起点となるのは、LPに座った時の(普通、座って聴きますよね?)耳の高さであるということです。LPとして定めたフロア面からの角度ではないことに注意してください。ゆえに細かく言えば、ソファとダイニング用の椅子では、座った時の「耳の高さ」は異なるので、そこからの角度も違ってくるはずです。

 

実は、これも注意深い読者はお気づきになっているかもしれませんが、『マニュアル』の1.3p.7)には、仰角は「25°35°」が「理想である」と書かれているのに、「表3」には、仰角の最小25度、最大40度とあります。上限値に関し、「35」と「40」のどちらが正しいのかについて、私<Auro3D>はAuro-3D関係者に問い合わせをしたところ、厳密には前者、つまり、35度までが望ましいそうです。「40度」というのは、第3章に書いた「大人の事情」、つまり先行するATMOSの「トップフロント」(後述)との互換性を確保するためであり、Auro-3D開発陣の<本音>は、35度までということは覚えておいてください(離れすぎると、第一層と第二層の間に音像が定位しにくくなるそうです)。

 

そして、見過ごしがちなのが、ハイトスピーカー群のバッフル面を向ける方向についての記述です。『マニュアル』18ページの図4の絵にも描いてあるように、LPで「立った時」の耳に向かって、ハイト群のバッフル面が垂直になるよう、設置の際は角度に気を付けてください。ここでややこしいのは、ハイトSP群の仰角を計測する際には、LPで「座った時」の耳の位置を起点にするのに対し、そのハイトSP群のバッフル面の向きに関しては、「立った時」の耳に対し向けるという点です。つまり、これは実際に座って聴く際には、自分の頭上を音が通り過ぎるようなイメージで設置せよ、ということです。開発陣は、この方が、Auro-3Dの魅力である空間表現をより効果的に発揮できると試行錯誤の上にたどり着いた結論だそうです。

 

ちなみに、これは5.1chサラウンド再生の原則と同じですが、第一層のSP群は、LPに「座った時」の耳の高さにツイーターの高さを合わせ(上記、角度・位置の起点はすべてツイーターです)、バッフル面は「座った時の」耳の方向に向けるのが望ましいということも付け加えておきます。

 

もう一つ、これは『マニュアル』には明示されていませんが、ハイトSP群を設置する場合に気を付けるべき重要な点として、バッフル面が縦長になるように設置するようにしてください。これは、4-2-1でも触れましたが、Auro-3Dでは基本的に各SPから「左右に」音波が拡散し、それらが相互に干渉し合成していくという前提でSP配置や仰角などを決めているからです。もし、ハイトSPに小型のブックシェルフSPなどを横に寝かして設置してしまうと、その左右や真下にある第一層のSPと間に、理論的にはきれいな干渉波、合成波が形成できなくなるということのようです。

 

5-3.  「壁」との距離・位置関係とシーリングスピーカー

 

最後に、この節では実際にハイトSP群を取り付ける際に注意すべきことをまとめておきます。

 

まず、「壁」との関係です。これは、4-1-2でもすでに書きましたが、SPの能力を最大限発揮させるためには、なるべくあらゆる「壁」から距離を取るのが望ましいとされており、これはハイトSPといえども例外ではありません。特にハイトSPの設置の際に問題になりそうなのは、天井という「壁」との距離です。

 

これは、『マニュアル』の3.1.2の「音響特性」の項にも「音響反射の強すぎる天井に近接」する設置は良くないと書かれています。第一層のSP群は、床という「壁」からは逃れられませんが、床の場合はカーペットなどを敷いて高域を吸音するというテクニックが使えますが(一般的なルームアコースティックのテクニック等については、他に詳しい本やサイトがたくさんありますので参考にしてください)、天井にカーペットを敷く(?)というのは簡単ではないうえ、オーディオルームとして最初から専用設計されたものではない日本の一般家屋ですと、往々にして石膏ボードが使われていることが多いです。この素材は反射や共振が強く出がちですので、このような天井からは、できれば最低でも50センチぐらいは距離を取りたいところです。

 

最悪なのは部屋のコーナー隅上部にSPを押し込むように設置することで、この場合は3方向に壁が迫ることになり、メガホン効果と呼ばれる指向性の強い音源になってしまう恐れが高いです。指向性の強い音源はATMOSなどの映画の効果音であれば「そこから音が出ている」感じがしてむしろ効果的な事もありますが、音楽再生に於いては他のSPとの干渉波・合成波が形成されにくいため、好ましくないとされています。

 

もう一つ、ハイトSP群として、シーリングSP(天井埋め込み型スピーカー)を使うケースがあり得ると思います。実はこのシーリングSPはATMOSでは推奨されている形態なので、ATMOSとの共存(後述)を考えたい方は検討していると思いますが、Auro-3D的には、「天井が低い部屋」(つまり、通常のSP設置では、LPとの距離が取れず「近接効果」が出る恐れがある場合や、正しい仰角が取れない場合)の緊急避難的なものである、というのが<本音>だとAuro-3D関係者から伺っております。その最大の理由は、シーリングスピーカーは構造上、バッフル面をLPに向けられない(天井が床と平行であれば、必ず真下を向く)ためで、前節で詳述したAuro-3Dの設置ルールが守れないからです。

 

ゆえにできればシーリングSPは避けたいVOGを除く)ところですが、どうしてもという場合は、『マニュアル』4.1.3に書いてあるように、ツイーターの角度が可変になっていて、前述したようにLP頭上に向けられるようになっているものを選んでください。ATMOSでは第二層のSP群は「真下に向けろ」との指示がありますが、Auro-3Dは「LP頭上に向けろ」、と異なっています。これはATMOSが主に映画音響を重視しているため、「そこで音が鳴っている」感覚を得やすくなるようなスピーカー角度を選んでいるのに対し、音楽再生を重視するAuro-3Dでは、LPにおいて他のSPとの音波が交わり、一体となった空間感(アンビエント音)が形成されることを狙っているためです。

 

以上をまとめますと、第一層と第二層のSP群の垂直配置はAuro-3Dの音場創出のカギであるため、厳守仰角やバッフル面の角度にも注意を払う天井に近すぎる設置は避けるのが第二層SP群設置のポイントです。

 

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1章から第5章のここまでで、Auro-3D理想的に再生する環境を整えるための、私<Auro3D>のこれまでの知識や経験に基づいたアドバイスは終わりです。ここまで書いてきたことは、Auro-3Dとしてはかなり普遍的な種類のことで、今後もあまり変わることはないでしょう(そもそも、部屋やスピーカーの設置というのは、一度やったらなかなか変更できないし、したくないものです=笑)。

 

ただし、ここに書いてきたことは、<自家製の指南書>です。私は、間違いなくまだあまり取り組む人の少なかったAuro-3Dという世界に探検に行った先駆者の一人だと思いますし、ゆえにその「経験談」をこのような形でまとめて、後に続く人の参考になれば、と思ってこれを書いています。

 

しかし、スポーツのレッスンでもそうですが、まず最初に「型」を習いますが、その後は自分のプレースタイルに合わせて「自己流」にアレンジしていくものです。Auro-Dも同様で、この『入門』でお示ししたのは、私<Auro3D>がいいと思う「型」の一つに過ぎません。「教科書」である公式の『マニュアル』では説明が不十分ですので、まずはこの『入門』を参考に取り組んでみて、徐々に「自分なりのAuro-3D」を形作っていっていただければと思っています。

 

その参考になるように、ここから先は五月雨式に、<実践編>として、「理想」ではなく「現実」の事例として、Auro-3D友の会の仲間などの取り組みを紹介したいと思っています。

 

その合間に、Auro-3Dを再生するのに不可欠な送り出し側の機器や技術である、日進月歩のAVアンプや補正などについて語って行きたいと思うのですが、実はちょうど、私が注目している補整ソフトの更新のタイミングが迫っているので、更新が終わって自分で新しい機能などをいろいろと体験してから、続きを書きたいと思います。

 

 

2023年2月23日 (木)

『Auro-3D入門』<準備編>(4.スピーカーは何を選べばいいのか)その3

4-3. サブウーファーは必要か?

 

本章の最後に、Auro-3D再生に於いて、サブウーファー(SW)は必要なのか、必要だとすればどのようなものを、何台あるのが理想なのかについて、考えたいと思います(『マニュアル』4.3p.26)も参照のこと)。

 

実は、Auro-3Dの音楽ソフトの多くは、9.0ch録音や、11.0ch録音になっているものが少なくありません。この「.0ch」という意味は、LFEと呼ばれるSW用の音を入れていないということです。LFELow Frequency Effect)は、基本的には映画音楽で地鳴りとか爆音を再生する際の効果を高めるためのものですが、音楽ソフトの場合は、LFEを使う(SWから専用の低音を出す)と他の、「質の高い」SPLCRなど)が再生する良質な低音と干渉し、音質が低下すると考えるエンジニアが少なくないようです。

 

では、「音楽再生用Auro-3D」を目指すのであればSWは不要かというと、私<Auro3D>の見解は、複数必要派です。後程、実践例をご紹介しますが、再生周波数帯域の下限が、SWなんかに頼る必要のない超大型のSPLRに使っているような方でも、(それに見合った質の)SWを導入するメリットはあるのです。

 

一般にSWというのは、ある程度大型で、(超)低域(100Hz以下ぐらい)の再生に特化して設計されているものです。一方、普通のSPシステムは、かなり大型のウーファーユニットを使っているものでも、大体、クロスオーバー周波数(SPユニットの受け持ち周波数帯域を決めるもの。ウーファーの場合は上限値。以下CO)は、200Hz前後になっているものが多いです。そして、低域の中でも特に超低域と言われる周波数帯域(おおよそ50Hz以下ぐらい)を再生するには、大量のエネルギーを必要とし(このため、ウーファーだけ専用内蔵パワーアンプでドライブするスピーカーもあるぐらいです)、SPユニットにものすごい負担がかかります(再生音によっては、ワナワナ震えているのが目視できます)。この場合、もし、SWがない場合、一つのユニットで20Hz200Hzの低音(例えば、オルガンとチェロの協奏曲や、シンセサイザーとエレクトリックベースを使ったPopsなど)を同時に再生しなければならない時、ウーファーユニットの能力によっては20Hzの超低音を再生するのにエネルギーを使いすぎて歪が出てしまうことがあり、その結果、200Hzの低音の再生音にまで悪影響が出ることがあるようです。

 

つまり、この場合、20Hzのオルガンやシンセサイザーの再生をSWに任せることができれば、ウーファーはチェロやエレクトリックベースの200Hzの再生に専念することができ、良質の「200Hzの低音」が再生できるというロジックです。後述しますが、このようなSWを使った、SPユニットにとって負担の大きい低音再生の役割分担をする機能(Bass Managementと言います)が通常のAVアンプ等にはあり、私<Auro3D>的にはこの機能を積極的に使った方が結果的に良質の(超)低音再生が得られるとの結論に経験的に達しています。

 

4-3-1. どのようなSWを選ぶべきか

ただ、このためには、言うまでもなく、「良質のSW」を使う、という大前提があります。「良質の」というのは、もちろん、良質の低音を出せる、という意味ですが、これはどのようなSWを選べばいいのでしょうか。

 

一般的に、低音の再生能力は、「動かせる空気の量」に比例すると言われます。つまりその方法論は二つしかなく、ひとつは「大きなうちわを使う」方法、もう一つは、「うちわを動かす距離を長くする」です。

 

前者は、スピーカーユニットの実効面積ということになり、これを大きくするためには、大きなスピーカーユニットを使うか、たくさんのスピーカーユニットを使うかという、これもまた二つのアプローチがあります。後者は、ストローク量というスピーカーのコーン紙が動く距離を長く設計するという方法がとられます。

 

かつては巨大な一つのスピーカーユニットを使う(一般に、大きいほど、f0と呼ばれる共振周波数が下がり、これが最低出力周波数に直結する)方法が主流でしたが、この方法だと、コーン紙を俊敏に動かすにはとても大きなパワーを必要とする(大きなうちわを速く動かすのには相当な力がいるはず)ため、往々にしてやや甘い(つまり、俊敏にはコーン紙が動かない)低音が出やすいという欠点(これを「美点」と捉える方もいます)があり、このため、最新の設計によるハイエンドSWは、ほとんどが大型ではなく中型の、ストロークを稼げるユニットを複数使う(背中合わせに二つ付けたものが多い)ことで、空気を動かす量を増やす方式を採用しているようです(そこにさらに、高出力が得られやすいデジタル電源+D級のパワーアンプを内蔵しているものが多い)。

 

さらに、このコーン紙の動きに関係する構造上の形式が、4-1-2でも言及した「密閉型」と「バスレフ型」の違いです。当然空気を閉じ込めている前者の方が、コーン紙は動きにくく、風通しの良い(笑)後者の方がコーン紙は動きやすいです。この違いは音色にも表れ、密閉型は重い暗い低音、バスレフ型は軽い明るい低音が出る傾向にあり、これはSWだけでなく通常のSPでも同様で、オーナーの好みが分かれるところです。

 

ただここで両者が再生するf特に注目すると、密閉型の方はf特が低域に行くほどなだらかに減衰していく特性になっているのに対し、バスレフ型の方は「f0と呼ばれる、ある周波数特性」まではかなりフラットに出力されるものの、そこから先は急激に再生音圧が下がるという特性になっています。

 

これはなぜかをここで詳細に書くのはこの『入門』の趣旨からは外れるので、ご関心がある方は別のソースを調べてみてください。ただ、ここでこれをわざわざ書いた意味は、以下で述べるSWの複数使用と関係がありますので、先に読み進めていただきたいのですが、ここで確認しておきたいことは、同じサイズのSPユニットを使っているSWであれば、超低域(20Hz前後)に於いては、密閉型の方が「少しは再生できている」(小型のバスレフ型では、構造上の再生限界を下回っているため、再生不可)という点です。

 

4-3-2. SWは何台必要か

さて、もしSWを使うとすれば、一体何台使うのがベストでしょうか?普通、マルチシステムを表示する場合に、5.1chとか、13.1chなどとあり、この0.1chSWを示していることから、「1」台が当たり前だと思っておられることと思います。しかし、この『入門』の前編はいわば<理想編>ですので、置き場所とか金銭的な配慮抜きで言えば(笑)、実は複数台ある方が望ましいというのが私<Auro3D>の意見です。

 

その理由は、SWは(超)低域を専用に再生しますが、密閉空間における低域再生には、「定在波」という、非常に厄介な問題が付いて回ります。「定在波」のロジックについて説明している本やサイトは多いのでここでは詳しく書きませんが(ここでは、低域の定在波だけを問題とします。中高域の定在波は別名「フラッターエコー」とも呼ばれますが、ここでは割愛しますがこれは比較的対策も打ちやすいです)、その現象面だけを言えば、場所によって低音がとても強調されて籠ったような不明瞭な音になったり、あるいは逆に、場所によって低音が聴こえにくくなったりします。特に低音が抜けにくいような堅固な「壁」で囲まれている部屋の場合に発生します(この点、伝統的な木造和室などは低音が抜けやすいので、定在波が発生しにくいといわれます。その代わり、近所迷惑は考慮しなければなりません!)。

 

低域の波長は長いため、低域の定在波は、部屋の中に偏在する(粗密が発生する)性質があり、一般的には、LPに於いてなるべく良質の低音が聴こえるように、SWを部屋中あちこちに置いてみてベストな位置を探せ、などと指南してあるものが多いですね。

 

しかし、この方法だと、サービスエリア(良好な音が聴こえるポイント)が非常に狭くなるという問題があります(音楽を聴いている間、頭を動かせない!)。もちろん部屋のレイアウト上おきたい場所に、(音質を優先するなら)SWを置けないということも発生します。また、音は壁で反射して戻ってくるので、結局1次反射、2次反射、3次反射(低音のエネルギーは高音に比して減衰しにくく、また吸音も難しい)・・・と検討していくと、密閉空間ではどの場所においても「クリア」な、つまり直接波だけの低域を聴くことはできないという本源的な問題に行きあたるのですが、この問題を、複数SWの導入と最新のテクノロージーの手助け(補正についは後述)を借りて、かなり解決できることがわかってきています。

 

以下は、JBLという有名なSPブランドを擁する、Harman Internationalによる技術レポートですが、ここには、4台のSWを、部屋の四隅か、あるいは各壁に沿った中央に配置するのが最も望ましい低域再生のためのSWの使い方である、ということが書かれていますので、参考にしてみてください。https://www.harman.com/documents/multsubs_0.pdf

ここで指摘されている複数SWを使うことによる最大のメリットは、部屋の中の低域の偏在を減らし、比較的均一で癖のない低域再生が可能になる、ということです。

 

次に、4台とまではいかなくても、複数SWの導入は、SW一台の負担を減らせるという意味でもメリットがあります。4SWを入れたからといって、低音の量が4倍になるわけではありません。録音エンジニアが設計した通りの音量をLPに届けるのが目的ですから、4台使えば数学的には各SWの負担はそれぞれ四分の一になるわけです。一般にスピーカーというのは、車のエンジンと同様、レッドゾーン近くまで頑張らせると、異常振動が大きくなり、結果として歪が増えて出力される音質が下がります。つまり、複数SWを導入して一台の負担を減らせば、音質の向上が期待できるとともに、先に書いたように、それらが「密閉型」であれば、超低域再生に於いて、「三本の矢」の論理で、ある程度小型のSWでもそれが複数あれば対応できる、ということです。

 

最後に、Auro-3Dの特徴の一つである、「平面波」の形成とSWとの関係について触れておきたいと思います。

 

一般に、SWの使用方法としては、①LFEとしてのみ使う(この場合、録音エンジニアがLFEに音を入れていない場合は、SWは稼働しない)、マルチシステムを構築するすべての(あるいは一部の)SPの低域部分をSWに担当させる(Bass Management=以下BM特定SPに対するAdd-on として利用する(アンプからのあるチャンネルへの出力を、SPSWの両方に分配する方法。この場合、SPの最低(低域)再生周波数帯域はカットすることはできず、SWの最高再生周波数帯域のみカットすることができる)-の3通りがあります。

 

このうち、3-2で説明したフロント6台による「平面波」創出効果との関係でいえば、が最も有効です。「平面波」は、特に低域において創出しやすいし、またその効果も高いのですが、もし、お使いのLCRHLCRの低域再生能力がほぼ同等で、かつかなり低いレベル(2030Hz)ぐらいまで再生可能であれば、これら6台のSPに対してフル帯域の再生をさせれば、6台のSPの再生限界域の低域まで「平面波」の形成が期待できます

 

ただ、普通はHLCRは、LCRに比して小さな=低域再生能力の低い=SPを使っていると思われますので、その場合はHLCRが再生できない低域において、「平面波」の形成に関し「取りこぼし」ができます。仮にそれが50Hzだとすると、これはソースによっては重要な低音なので、このレンジの低域再生を補助するためのSWの使用は検討する必要があると思います。

 

の場合は、BMで設定した周波数以下の音域では、「平面波」は形成されず、そのレンジは、SWに任されることになります。この場合、で説明したように6台のフロントSPの低域再生能力がどの程度まで揃っているのかにより、BMCO値をどの水準に設定するかが重要となってきます。つまり、「平面波」(つまりこの場合、BMの設定値以上の帯域)をどの周波数帯域までフロント6台で形成させ、どの周波数帯域からBMによってSWに再生させるのが最も質の高い低域が再生できるのかを、ユーザーが試聴して決めるしかありません。私<Auro3D>の経験では、HLCRで使っているSPの低域再生能力ギリギリのところにCO値を設定するより、もう少し余裕を持たせたCO値にして、それ以下をSWに任せた方が、ハイクオリティのSWを使用している場合であれば、結果的には良質の低音が得られるという結論に達しています。

 

の場合で、「平面波」の形成にSWを参加させられるケースは、LCRおよびHLCRの低域再生能力を「平準化(つまり、この6台の再生限界値を同じにする)」するためのAdd-on利用であること(具体的には、一般に小型SPを使っているHLCRに対するAdd-on)と、SWAdd-on対象となるSPの近くに配置して、LCRHLCRおよびSWが同一平面上に並ぶことという2条件が満たされる必要があります。

 

これは現実問題として、HLCRが小型SPの場合、Add-onするSWHCRと同じ高さ・同じ面に設置する必要があるため、ややハードルが高いと思われます。さらに、同一面にSWが並ぶ(恐らく複数台になる)というのは「1台の巨大なSWを設置」したことになる可能性が高く、複数のSWを部屋のあちこちに分散して設置するより、前述した「定在波」を巨大化させる可能性があるため、注意が必要です。ゆえに私<Auro3D>としては、の使い方はお勧めいたしません

 

結論として、私<Auro3D>的には、フロントの6台に十分な低域再生能力のある同一SPを揃えられる場合か、よほど巨大なバスレフ型SWをパワフルなアンプでドライブできる環境である場合を除き、密閉型のSWを複数台導入することを推奨したいと思います(ただし、後述する、室内音響補正ソフトの使用が前提)。

 

2023年2月21日 (火)

『Auro-3D入門』<準備編>(4.スピーカーは何を選べばいいのか)その2

4-2.  すべて同じスピーカーで揃えるべきなのか?

 

マルチスピーカーシステムの「教科書」には、「スピーカーはすべて同じものを使うべし」と書かれています(『マニュアル』4.1 p.25)。確かに、全く同一のSPを使えるのであれば、音像定位、音色や位相(後述)が揃うなどのあまたのメリットがあるのは事実です。しかし、かつての4ch5chであればともかく、この『入門』が扱うAuro-3Dでは最低11台のSPを使用することを推奨しているわけで、しかもその設置場所がフロアと壁や天井に分かれており、「置く」と「吊るす」では、その難易度と、必要な強度が全く異なってくるため、11台(あるいは13台)をすべて同じSPで揃えるのはかなりハードルが高いでしょう。

 

本節では、「すべて同じSPで揃えられない」としたら、どのSPを重視し、優先し、どのようなことに気をつければよいかを整理していきたいと思います。

 

4-2-1. どのSPを重視・優先するべきか

 

私<Auro3D>は、音楽再生用としてAuro-3Dを捉えてこれを書いておりますし、前述の通り、Auro-3Dは「フロント重視」の音像・音場を形成します。もしこれが映画用の「ATMOS設置マニュアル」でしたら、私は「全部同じSPにすべし!」と強調するでしょう。映画では真後ろから(つまりサラウンドバックSPから)銃声が聞こえたり、真上から(ATMOSでいうところのTopスピーカー)雷鳴が聞こえたりするわけですから、「ベスト」を追求するのであれば、どこであろうと一台たりとも能力の低いSPを入れるわけにはいきません(最新の映画館などに行かれると、ものすごい巨大なSPシステムが天井から吊ってあるのにお気づきになると思います)。

 

しかし、音楽の世界では、真後ろや真上から特定の音が出ることはほとんどなく、普通はフロントから発せられている音がメインで、その音場感を補強するためのアンビエント音が横や後ろ、あるいは上から出ているだけで、「そこから音が出ていることすら気づかない」方が多いです。ゆえに音楽再生用のAuro-3Dでは、限られたリソース・条件であれば、むしろフロント重視のSP配置にすべきだ、というのが、私<Auro3D>がこれまでの経験と専門家などとの議論を経てたどり着いた結論です。

 

この「フロント」は、Auro-3Dでは、第一層のLCRと第二層のHLCRの計6台を指しますが、言うまでもなく、特に重要なのはLPに近い、LCRの三台です。

私<Auro3D>的には、「音楽を聴くため」のAuro-3Dを構築するのであれば(つまり映像は不要)、少なくともこの3台だけは同一SPを使うことを強く推奨します。4-2で述べたように、Auro-3Dは多くのSPを設置する必要があるので、必ずしも自分が気に入っているSPだけを置けるわけではないかもしれませんが、ここのLCRだけはそのような妥協はせずに、是非ご自分が一番気に入っているSPを導入して欲しいと思います。また、その設置環境(壁との距離)も、他のSP群はある程度の妥協を強いられると思いますが、このLCRに関してはなるべくベストに近い状態で配置されるのが望ましいです。

 

これは何度も書いていますように、LCRは「Auro-3Dの主役」だからです。「主役」にはそれにふさわしいものに、それにふさわしい環境を与えなければ「主役」としての実力を発揮できません。ここで注意を喚起しておきたいのは、よくある、メーカーのシリーズになっているマルチシステム用のスピーカーセットには、C(センターSP)だけが横長で、縦長のLRとは異なるものを使っているのがカタログなんかには掲載されていると思いますが、映画ならともかく、本気のAuro-3D音楽専用システムであればここはCLRと同じものを使うことに拘ってください。

 

たとえすべてのユニットや方式(密閉やバスレフなど)が同じでも、縦置きと横置きでは、音の広がり方が異なり、創出する音場が異なってきます。この理由は、球面上に発せられる音波はバッフル面(スピーカーユニットが取り付けてあるスペース)によって、ある程度球面上の広がりを妨げられるのですが、このバッフル面が上下に長い縦置きSPの場合は、音波は左右に広がりやすく、上下に広がりにくくなります。同様に、バッフル面が左右に長い横置きSPの場合は、音波は上下に広がりやすく、左右には広がりにくくなります。

 

もし、センターだけにバッフル面が横に長いSPを使うとどうなるかというと、前述した音波の「干渉波・合成波」が、LとC、CとRとの間で、理論的にはきれいには形成されなくなってしまいます。「合成波」がきれいに形成されなければ、それは音質や音像定位および音場感に影響が出ます。

 

また、前章で説明した「平面波」の形成においても、LCRHLCR6台のうち、Cだけが音の広がり方が異なるのであれば、これもきれいな平面波が形成されません。

 

このような理由から、AVカタログにあるような横置きセンターSPを使うことは、原理主義的に申し上げれば音楽再生専用のAuro-3Dシステムを本気で構築するなら避けるべきことなのです。

 

4-2-2. ツイーターの方式・素材を揃える

 

では、LCRさえ同一SPを使えば、あとはバラバラでいいのか、というと、さすがにそれもマズイです。

 

繰り返しになりますが、音楽再生の場合、LCR以外のSPから出る音は基本的にはアンビエント音です。例えばコンサートホールの壁や天井から反射してくる音を再現していると言っていいでしょう。これは「反射音」ですから、「直接音」を担当するLCRほど高性能なSPを使う必要はありません(もちろん、金銭的にもスペース的にも設置可能であれば、それがダメというものではありません=笑)。ただ、音色だけは揃える必要があります。

 

例えば、LCRに柔らかいフルートの音を出すSPを使っているのに、サラウンドバックやサラウンドハイトに、固い金属音を強調するタイプのSPを使っていたらどうなるでしょうか?フルートの前から来る直接音と、後ろや横から来る反響音の音色のあまりの違いに、思わず後ろを振り返ってしまうような違和感を受けるであろうことが想像できると思います。

 

では、「LCRと音色を揃える」ためには、どのような点に気を付けて他のSPを選べばよいでしょうか。一番簡単な方法は、もしLCRSPと同じ設計思想・同じSPユニットを使ったシリーズのものがあれば、それを使うのが確実です。その意味では、同じシリーズ内で大型・中型・小型といったLineupがあるものの方が、Auro-3Dを構成するSPとしては望ましいとはいえます。これであれば、同じメーカーの同じシリーズで、LCRには大型を、サラウンドやサラウンドバックには中型を、壁にかけざるを得ないハイト群には小型を当てる、という方法が取れます。

 

このようなシリーズがないSPLCRを構成したい場合は、少なくともツイーターの物理的特性(方式や素材)をLCRと揃えることをお勧めします。一般的に、スピーカーの「音色」を規定するのはツイーターの影響が大きいと言われているからです。ここでは詳述しませんがツイーターの方式にはホーンやリボン、ドームなどと呼ばれるものがあり、またその素材には、パルプ(紙)、シルク、金属(アルミ、ベリリウムなど多種類あります)、ダイヤモンドなどといったものがあります。なるべくLCRのツイーターと、同じような方式や素材を使ったツイーターを使っているSPを選べば(同じメーカーであればなおよし!)、かなり「音色」は揃ってくると思います。

 

4-2-3. ユニット間の極性を揃える

 

さて、この問題はAVショップやオーディオショップの店員さんでも、各スピーカーユニットの極性がどうなっているのかを知らない方も少なくないぐらいで(汗)、ある意味「普通は気が付きにくい、あるいは気にしない方が多い」問題なのですが、2ch再生であればともかく、Auro-3Dのようなマルチチャンネル再生用のSPを揃える上で、無視できないとても重要なことです。

 

『マニュアル』の4.2p.26)にも、「極性」というタイトルの節がありますが、さらっと書いてあってあれではよくわからないと思いますので、ここで詳しく補足したいと思います。

 

まず、「極性」とは、教科書的には、電気のプラスとマイナスのことです。スピーカーの極性は、「電圧をかけたときにスピーカーのコーン紙が動く方向」として現れます。『マニュアル』にある、「スピーカーの極性を同じにする必要がある」というのは、同じ正(プラス)電圧がかかった時に、すべてのスピーカーのコーン紙が同じ方向(前から後ろはどちらでもいいが)に一斉に動く必要がある、という意味です。

 

スピーカーの後ろには普通、赤と黒のSPケーブルを接続するため端子が付いています。普通は赤がプラス、黒がマイナスのハズです。これを利用してお手持ちのSPの「極性」を調べる簡易な方法がありますが、ここでは書きませんので関心のある方は検索してみてください。

 

さて、お使いの複数のSPが、すべてシングルコーン(フルレンジ)であれば、この「極性を揃える」のは簡単にできます。基本的にはSPの赤い端子にパワーアンプの赤い端子をケーブルで結べばよいからです(もちろん、黒は黒に)。たまに、何らかの手違いで(汗)、アンプ側かSP側のプラスとマイナスが逆についていることもあり得るとは思いますが、その場合は落ち着いて(笑)、単純にケーブルを赤黒逆につなげばよいだけです。

 

いずれにせよ、正電圧がかかった時に、すべてのSPのすべてのSPユニットのコーン紙が、前でも後ろでもいいので「同じ方向に」動けば、全スピーカーの「極性」は揃っています。

 

しかし、2Way以上の、複数のSPユニットで構成されている一台のSPの中で、同じ極性の電圧をかけたのに、異なる方向に動く「ひねくれもの」のユニットが混じっていることがあります。これは2Wayでは私の知る限りでは無いのですが(世の中のどこかにはあるかもしれません)、3Way以上だと、たまーに、この「ひねくれもの」=つまり、正負の極性が他のユニットとは逆につないであるSPユニット=が混ざっていることがあります。

 

これはもちろん、はんだ付けの時のミス、という可能性もゼロではありませんが(汗)、その場合は、その1台だけの問題で、ペアで買ったであろうもう1台のSPとは違う動きをするはずですから、その場合は即、購入したオーディオショップにクレームを入れてください!どちらかが「間違って」製作されていますので(笑)。

 

メーカーが意図的に、2Way以上の一台のSPの中で、特定のSPユニットだけを逆極性接続しているものは存在します。これはメーカーがわざとやっているわけですから、音響電気工学(?)的に理由があるわけです。その理由というのを論理的に説明するのは私の手に余りますのでここでは割愛しますが、その基本的な目的は、再生時の音響的な低域から高域までの出力特性(f特)をスムースにするためだそうです。また、逆極性に接続しているユニットの受け持つ帯域の音が、「浮かび上がる」という効果がある、と主張される方もおられます(私は未確認)。

 

いずれにせよ、設計段階でユニットの一つを逆極性に接続しているSPが単体で音を出した場合に、「変な音」が出るわけではありません。そして普通の2chステレオであれば、LRは同一のSPで揃えるのは常識ですから、2chステレオ再生に於いても何の問題もなく、全ユニットが同じ極性で接続されているSPと何らそん色ない機能を果たしています。同様に、Auro-3Dのようなマルチチャンネルの場合も、お使いのSPがすべて同一のものであれば、つまりSPのユニットの中に逆極性のものが混じっているように設計されたSPですべて取り揃えるのであれば、何の問題も生じません

 

ここで問題になるのは、異なるSPを使って構成されたマルチチャンネルシステムの場合で、すべてのユニットが同じ極性で接続されているSPと、先の「ひねくれもの」(=繰り返しますが、決して音が悪いというわけではありません)が入っているSPとが、混在している場合です(前項の「音色を揃える」というテーマのところで、「同一のシリーズを使えば大丈夫」というようなことを書きましたが、実はこの「極性」に関しては、同一のメーカーのシリーズなのに、相互に設計思想の異なるものが混在している場合もあるんです…)。

 

例えば3Way(ツイーター、スコーカー、ウーファー)のSPで、スコーカー(Mid)だけが逆極性接続設計されているSPがあるとしましょう。それがセンターSPなら1台、サラウンドSPなら1ペア(2台)入っているわけです。そして、それ以外のLRなどのSPがすべて、すべて正極性接続のSPユニットで構成されているものとします。

 

ここで、くだんの「ひねくれもの」(笑)、つまり、スコーカー(Mid)だけが逆極性接続設計されているSPのスコーカーの守備範囲が仮に500Hz2000Hzだったとしましょう(実際にはこのようにきっちりと受け持ち周波数帯域が分かれているわけではありませんが、ここでは議論を単純化します)。

 

この場合、何が起きるかというと、500-2000Hzの帯域に於いて、この「ひねくれもの」SPが再生している音波と、それ以外のSPが再生している音波が、ちょうどSFの世界の「反粒子」のように、打ち消しあって音が消えてしまうということが両SPと等距離の場所で聴いた場合に発生します。これは、極性が反対のSPユニットから出る同じ音波の波の波形(山と谷)が、ぴったりと相互に反転して出力されている(音響工学用語では、「位相が180度ズレている」というようです。「位相」については後述します)からです。つまり、プラスとマイナスが逆につながれているわけですから、片方のSPユニットが前に出る瞬間に、もう片方のSPが同量だけ後ろに引っ込んでいるわけです(この仕組みを利用したのが、最近イヤホンなどで使われるようになってきた、「ノイズキャンセリング」機能です)。

 

もし手元にSPがワンペアあるのであれば、この極性が反対に再生された音が一体どのように聴こえるのかを確かめるのは簡単です。片方のSPをわざとプラスマイナスを逆につないで、普通の2chソースを再生してみてください。ボーカルが分かりやすいです。

 

普通の2chソースであれば両スピーカーの「真ん中」に定位するボーカルが、真ん中から消えて、両サイドの遠くに離れて歌っているような再生音になると思います。

 

先の事例で言えば、500-2000Hzというのはちょうど人間の声の再生帯域なので、恐らく「スコーカーが逆極性接続されているSP」と、「正極性接続のSP」の間では、人間の声は正しく定位しません。空から降り注ぐような(笑)、拡散した声になって聴こえるはずです。

 

2ch再生の場合は、普通はLR二台ペアになっていますし、万一プラスとマイナスをつなぎ間違えたら、だれでもすぐに違和感を持ちます。ただ、これがマルチチェンネルシステムの中に紛れ込んでいると、少々ややこしいことになるのです。

 

例えば、単純化して5chシステムを考え、LCRを同一のSPで揃え、サラウンドのLRは家にあった余りもののSPで構成しているとしましょう。そして、あいにく、このサラウンドLRが先に事例として上げた、スコーカーだけが逆極性接続になっている3Wayスピーカーだとします。もちろん、LCRは全ユニット正極性接続ということにします。

 

この組み合わせで5chの音楽ソフトを聴いているとしますと、普通メインの音(ボーカルや、チェロとかピアノとか)は、LCRに振ってあり、サラウンドにはアンビエント音として、ホールの音とか、Jazzクラブの喧騒などが収録されているものです。このようなソースを聴いている場合、サラウンドの500-2000HzLCRと相互に逆相になっていることに気がつく人はほとんどいません。特にアンビエント音はある意味、広がり感がある方が効果的な場合が多いので、相互に逆相であることによって作り出される「(変な?)広がり感」はOKなんです。

 

ではどのような時に問題になるかというと、例えば、録音エンジニアが、右手前方、つまりRとRsの「間に」何らかの楽器を意図的に定位させようとして録音している場合です。小編成のJazzなんかだとたまにこのような録音があります。センターにボーカル、Lにピアノ、Rにキックドラム、RとRsの間にシンバルのような。この場合、シンバルが危ないです(笑)。本来はきっちりとシンバルにスティックが当たった場所が分かるぐらいの定位感のある録音がされているのに、大きな銅鑼のような広がりのあるシンバルが鳴り響いているように聴こえるでしょう。で、自分のシステムでしか聴いたことの無い人は、「こういう演奏・録音なんだ」と思っていて、この段階でもまだ恐らく違和感を持ちません。ただ、同じソフトを友人の家の、全ユニット同極性で構成された5chシステムで聴いた時に、「あれっ、シンバルの感じがうちと違うな」と気がつくのです。

 

もっと深刻なのは、映画の再生かもしれません。先のシステムで、右後ろから悪者が忍び寄り、左前方の美女を襲うシーンがあると想像してください。映画の音響エンジニアは、最初は画面には写っていない悪者の、足音だけを右後ろから右前に移動させようとするはずです。この時、RsとRの極性が相互に逆になっていると、右後ろから聴こえ始めた足音は、全く移動せずに「その場で」だんだん大きくなり、「突然」、右前に足音が移動して画面に悪者が登場することになります。つまり、RsとRの間の音は消えてしまうため、足音が「正しくゆっくりRsとRの間を移動」できず、一足飛びにRsからRへ移るのです。

 

では、どうすれば、このような「ひねくれもの」のSPがシステムに紛れ込むのを防げるでしょうか?方法はとても簡単です!例えば、自分がフロントハイトSPを購入しようとお店に行ったときに、自分がすでに持っていてマルチに組み込む予定のSP(たいてい、LRから決めるはずで、この場合、全ユニットが正極性であることが事前にわかっているものでなければなりません。もしそれがない、または決まっていないときは、「フルレンジ」SPを片方に使わせてもらうといいです)と、購入予定のSPを一台づつ、LRにそれぞれつないでもらって、センターに定位する「ボーカル」を聴かせてもらえばよいのです。ボーカルがセンターに来なければ、どこかのユニットが逆極性になっています(プラスマイナスのつなぎ間違えには注意してください=笑)。そのようなSPAuro-3Dシステムへの導入は控えましょう。

 

『マニュアル』にさらっと書いてある、「すべてのスピーカーの極性を同じにする必要があります」(p.26)とは、こういうことなのです。

2023年2月19日 (日)

『Auro-3D入門』<準備編>(4.スピーカーは何を選べばいいのか)その1

4.スピーカーは何を選べばいいのか

 

ここまでで、部屋とAuro-3Dのスピーカーレイアウトを決めてきました。

 

この章では、そこで使用するのに相応しい、スピーカー選びのヒントを書いていきたいと思います(『マニュアル』4.(pp.25-26)も参照のこと)。

 

もしかすると、中には、先に自分のお気に入りのSPがあり、それをAuro-3D再生に使うことをもう決めている方もいらっしゃると思いますが、SPによっては部屋や設置方法に注意すべきものがありますので、「もう選んだから」と読み飛ばさず(笑)、最後まで目を通してみてください。

 

4-1. 「空間」に相応しいSPを選ぶ

 

ここでいう「空間」とは、部屋の大きさや形だけでなく、そのスピーカーを設置する周囲の環境空間(具体的には壁との距離)を指します。

 

4-1-1. 部屋とSPのサイズから選ぶ

 

まず、これは2chの世界では定説ですので言うまでもないとは思いますが、大きな部屋に小さなSPや、小さな部屋に大きなSPを選ぶのは一般に良くないとされます(スピーカーの大きさと部屋のサイズをどう定量的に検討すればよいのかについては、他に詳しく書かれている本やサイトもあると思いますので、そちらを参考にしてください)。

 

ダメな理由を簡単に説明しておけば、まず、「大きな部屋に小さすぎるSP」の問題は、SPが音を出す仕組みは、「空気」を動かして波を作るわけです。「大きな部屋」(=必然的にSPLPとの距離が長くなる)というのは、動かすべき「空気」が多いのに対し、「小さなSP」というのは動かしうる「空気」が少ないため、LPに於いて低域から高域の広い帯域に渡って、オーディオ的に満足できるレベルの音圧を得ることができないからです(耳の穴に入れるイヤホンより、耳に当てるヘッドフォンの方がユニットが大きい理屈)。特に低音は、前章に書いたように拡散しやすいので、一般に「大きな部屋」には「大きなウーファー」が必要になります(ただし、低域はサブウーファー=SWで補うという方法もあります=後述)。

 

確かにAuro-3Dの場合は、普通の2chステレオに比してSPの数が多くなるので、数がサイズを補う部分はありますが、それでも、特定の音が特定のSPからしか出ない場合も特に映画音響などではあるわけですし、前章で触れた「平面波」の形成には、SPが作る音波間の相互干渉が不可欠なので、広い部屋に小さなSPが点在していては、音波の相互干渉=平面波の形成が起きにくくなります。このような理由から、部屋のサイズに比して小さすぎるSPを揃えるのはお勧めしません。

 

次に、「小さな部屋に大きすぎるSP」がなぜいけないかというと、その理由は大きく分けて二つあります。

 

一つは、先ほどの逆で、音波の相互干渉が重なり過ぎるため、きれいに音が分離しない=音離れが悪い、という現象が生じやすくなるのです。単純化して言えば、例えば、大型SPを二台並べて設置してステレオ再生した場合、どちらのSPからも同じ音(たとえば中央に定位させたいボーカル)が出ることがあります。この場合、音の出どころが近すぎると、ステレオ再生で期待されるホログラフィックな(立体的な)定位感ではなく、べったりとした、単なる「大きな口」のようになる可能性が高くなってしまうのです。このホログラフィックな定位感は、そのSPの守備範囲に応じた距離を取ることで、音波の相互干渉が「適度に」起きて、直接波と相互干渉波との合成により形成されるのです。二つのSPがサイズに比して近すぎると、直接波≒相互干渉波となってしまい、「合成」の妙が生まれにくくなってしまうのです。

 

もう一つの理由は、「SPの近接効果」が生じてしまう、ということです。ここでいう「SPの近接効果」とは、2Way以上のSPで、非同軸型SPの場合、近接して聴くと高音と低音が分離して聴こえてしまうこと及び、高域が強調されてしまうという現象のことを指します。

 

ご存知のように、SPシステムにはスピーカーユニットがバッフル面に埋め込まれているわけですが、この埋め込まれているSPユニットの数は、一つのものから二つ、三つ、四つ(またはそれ以上も!)のものがあります。それぞれ、フルレンジ、2Way, 3Way,Wayなどと呼ばれますね。そしてユニット数が多いほど、同軸型(ユニット同士が重なって配置されている)と呼ばれるものを除くとこれらを普通は縦に配置するため、SPシステムは縦に長くなるはずです(他の配置方法もありますが、ここでは単純化して話を進めます)。

 

しかし、自然界の音というのは大体、一点から発せられています。例えば声は、声帯から、バイオリンは振動する弦とBodyから。このため、これらを再生するSPもその理想は「点音源」と言われるのはご存知でしょう(その意味ではフルレンジ=1Wayが最も「点音源」に近い再生方法です)。

 

Way以上のSPシステムは、フルレンジSPでは不可能な広い再生帯域を実現するために考案されているわけですが、中域の音域ではウーファーとツイーターの両方(3Wayならスコーカーを加え3つから)から音が出ています。つまり音源が2か所になっているわけです。理想は「点音源=音の出どころが一か所」ですから、スピーカーシステムの設計者は、「このスピーカーシステムが<一つ>の音源であると思えるだけの距離を取って聴くべし」と考えています。つまり、3Way, 4Wayとユニット数が増えてスピーカーシステムが縦に長くなればなるほど、「十分な距離を取って聴かないと、疑似的な点音源にならない」ということです。逆に言えば、SPLPの距離が取れない場合は、フルレンジや同軸型、あるいは少なくとも2WaySPを選んだほうが良いのです。

 

もうひとつ、大型SPシステムの設計者は、LPSPから相応の距離が離れていることを前提に音作りをしているので、大型システムになればなるほど、(超)高域の出力を上げているそうです。その理由は、音波は高音になればなるほど距離に反比例して減衰しやすいため、例えば「3M離れたLPでいい塩梅のf特バランスになる」よう調整されている大型SPを、1Mの距離で聴けば、「やたら高音が強い」という、f特バランスが崩れた状態で聴かされることになるのです。

 

ゆえに、大型の、例えば人間の身長ほどある4WayのようなSPシステムを、手で触れるような距離で聴くと、音像(例えば人の声)がとても「縦長」になったり、ピアノの右手が上、左手が下にあるような再生音になったり、バイオリンが高域と低域がとても離れて聴こえてまるで別の楽器のように感じる、というような再生音になってしまいます。そしていずれも、高音がうるさく耳に付いてしまいます。これが「SPの近接効果」とここで呼んでいるもので、狭い部屋に大型SPを置けば必然的にLPとの距離も短くなってしまうことから、このような現象が起きやすくなるのです。

 

ゆえに、「大きな部屋」には「大きなSP」、「小さな部屋」には「小さなSP」という、部屋の大きさに合ったSPを選ぶのが基本原則なのです。

 

4-1-2.  SPと壁との距離からSPを選ぶ

 

これはすでに第2章の部屋選びのところでも少し書きましたが、スピーカーから「良い音」を引き出したいのであれば、「SPに空間を与えてあげる」必要があるのは、2chの理論でもよく知られていることですね。

 

その理由を簡単におさらいすれば、前述したように音は球面で出るので、SPの真横や後ろにも音波は向かうわけですが、そのすぐ近くに壁(以下、天井や床も「壁」として扱います。要するに音を反射する「ある程度の固さと質量を持った平面状の物体」という意味です)があると、そこで音の反射が起きます。それが何回かの反射(一回だけのものを「一次反射」といいます)を経てLPにも届くわけですが、これが直接波(SPからどこにもぶつからずに直接LPに届く音波)と干渉したり、時間差で届くのが、一般には「音質を落とす」とされています。音波は距離に応じて減衰するため、なるべく「壁」をSPから離した方が、反射の影響を少なくできる、というロジックです。

 

では、どのくらい「壁」から離せばよいか、というと、それはもちろん離せば離すほど良いし、無ければベストなのでしょうが(笑)、もちろん、実際問題としてはあり得ませんね。この分野は2chの世界で知見の蓄積がありますので詳しく知りたい方はググってみていただきたいのですが、目安として一番簡単に理解できるのが、「ブックシェルフSP用のスタンドの高さ」です。SPユニットをなぜある程度の高さに持ち上げる必要があるのかは、ここまでお読みになった方は既にお分かりのことと思います。床という「壁」から離すためです(フロア型SPというのは、スタンド付きブックシェルフと言ってもいいかもしれません)。その高さは、大体1M前後ぐらいが多いかと思います。

 

つまり、これに準じて考えれば、理想的にはあらゆる「壁」から1Mは離したいところです。妥協しても50センチぐらいまででしょうか(笑)。ちなみに、反射材や吸音材を壁に配せば反射の影響を防げるのでは、と思われるかもしれませんが、それで対応できるのは中高域だけで、(超)低域の壁による反射対策としては一般には無力です(詳しいロジックは割愛しますが、興味のある方はお調べになってください)。

 

実はここからが本題です。この、SPからの音を濁らせないために取るべき「壁」からの距離は、SPの種類によって少し異なるのです。SPを種類分けする分類方法はたくさんありますが、ここで注目すべきは、①バスレフポートの有無と向き②エンクロージャーの強度-の二点です。

 

まず①ですが、SPには「ポート=穴」の有無に着目すると「密閉型」と「バスレフ型」(それ以外にもありますが、ここでは割愛)に大別できます。見分け方は前者はSPユニットが収められている箱(エンクロージャーと呼びます)にポートがない、後者はどこかにポートがある、という点です。両者の機能的な違いや音質的な違いについては、他で詳しいところがたくさんありますので、ここでは割愛します。

 

この項的に大切なのは、このポートの有無および位置によって壁から取るべき距離が変わるという点です。結論を先に言ってしまえば、ポートの無い密閉型はそこまで距離を取る必要がないが、ポートのあるバスレフ型は、ポートのついている向きの先にある「壁」からの距離は他より長めに必要、ということを知ってからSPを選んでいただきたいのです。

 

特に注意が必要なのが「リアポート」となっているバスレフ型SPの場合です(設置方法の詳細については、後述します)。

 

というのは、バスレフ型のポートは、「背圧」と呼ばれるSPユニットが後ろ向きに作る空気の波を逃がしています。この空気の逃げ道の前に障害物があると空気がスムーズに出ていきにくくなり、再生音に影響すると言われているからです。

 

このため、このような役割のあるバスレフポートがリアにあるSPを、壁にくっつけるように配置したり、本棚やテレビボードの中に埋め込んだりすることは禁忌(笑)です。事実、テレビボードの中に入れられる可能性がある「センターSP」は、同じシリーズ(=同じユニットを使っている)のスピーカーなのに、LR用はバスレフ、Cだけ密閉で作られているものも少なくありません(カタログなどで確認してみてください)。同じユニットを使っても密閉とバスレフでは微妙に音質が変わってしまうので、音色を揃えるという意味からは本来は避けるべき組み合わせですが、メーカーは「バスレフSPのポートを壁で塞がれるよりはまし」と考えた設計をしているということでしょう。

 

この例からも分かるように、SPを選ぶ際には、その想定される設置場所をどこにするのか、その場所の「空間」の余裕はどのくらいあるのかに応じて、密閉かバスレフか(ポートの位置も)という方式の違いを考慮すべきなのです。

 

もう一つ、②の「エンクロージャーの強度」についても簡単に触れておきましょう。

 

比較試聴ができるようにたくさんSPが並んでいるお店に行ったとき、同じ音量で鳴らした状態で、SPの箱(エンクロージャー)を触ってみてください。振動の多いSPと少ないSPがあるのに気がつかれると思います。これもSPを二分する判断基準の一つで、エンクロージャーが振動している(「箱鳴り」とも言います)ということは、振動=空気の波を作るのですから、エンクロージャー自体も何らかの音を発していることになります。この、「箱鳴り」による音の形成を、積極的に利用しているSPと、なるべく排除しようとしてエンクロージャーの剛性を上げているSPとに分かれます。

 

これについても、そのメリット・デメリットはここでは割愛しますが、この項の趣旨から強調すべきことは、これら異なる設計思想で作られたSPは、望ましい設置環境も異なる、ということです。

 

もうお分かりと思いますが、エンクロージャーが振動するSPを選んだ場合は、その周りに十分な「空間」を与えなければ、設計通りの音は出なくなります。つまり、本棚に押し込んだりするのはもってのほかで、「壁」との距離を意識的に取る必要がある種類のSPだということになります。

 

以上、設置環境によって考慮すべきSPの選び方についてまとめてみましたが、Spaciousなお店のセッティングで試聴して音が気に入ったからといって、それがご自分の設置環境で同じような音を出せるかどうか。ご自分が予定されているSPの設置環境=「壁」との距離(特にサラウンドやサランドバック、ハイトSP群など)に相応しい機能のSPを選ぶことは、せっかく選んだSPの能力を殺さないためにとても大切なことです。

2023年2月15日 (水)

『Auro-3D入門』<準備編>(3.スピーカーのレイアウトの検討-どの「Auro-3D環境」を構築するか)

3.スピーカーのレイアウトの検討-どの「Auro-3D環境」を構築するか

 

この章の内容は、前章の「部屋の決定」と密接に関係しています。つまり、「部屋を決めてからSPの数と場所を決める」のか、「スピーカーレイアウト=SPの数=Auro-3Dのグレード=を決めてから、部屋を構築する」のかはどちらでもよく、優先順位はあなた次第です。部屋のサイズ・形状と、スピーカーレイアウトは、理想を追求するのであれば、どちらも相互に密接に関連するのです。

 

まずは、『マニュアル』の2 「Auro-3D🄬の音声フォーマットとスピーカー構成」(9-11ページ)を見てください。ここには、不親切にも(笑)何の説明もなく「HLs」などの英語の略号が散乱していますから、まずはここから。

 

Auro-3Dでは、第二層のスピーカー群のことを、「Height(ハイト)スピーカー」と呼んでいます(Dolby ATMOSでは、この同じ第二層を、「Topスピーカー」と呼んでいて、後述しますが少々混乱しやすいです)。ゆえにこの「H」が最初についている略号は、ハイトの意味です。つまり、「HL, HR, HC」はそれぞれ、ハイトレフト、ハイトライト、ハイトセンターです。同様に、「HLs, HRs」はそれぞれ、ハイトレフトサラウンド、ハイトライトサラウンドです。

 

さらに「T」というアルファベットがありますね。これは、「Top」の略号です。Auro-3Dにおける正式名称では、第三層のスピーカーの正式名称が「Top」となっていて、ここがATMOSでは第二層のスピーカー群を指す呼称となっているため、混乱しやすいのです。先に書きましたが、この『入門』では、このような混乱を避けるため、「T」ではなく、「VOG」(Voice of God)と表記していきます。

 

3-1. 私Auro3D>がお勧めする、Auro-3D用スピーカーレイアウト

 

さて、ご覧になってお分かりのように、3層構造と一口に言っても、様々なスピーカーレイアウトの可能性があります。これらに対し、『マニュアル』2.1(10-11ページ)にはAuro-3Dの開発側による、「推奨」「ノーコメント」「非推奨」の3段階の評価が示されています。同2.2(12-14ページ)には、「推奨」の各フォーマットの設置模式図が掲載されています。

 

しかし、私<Auro3D>としては、Auro-3Dが「推奨」と認定しているいくつかのレイアウトの中でも、敢えて皆さんにお勧めしないものがあります。その理由は、決して私の独断と偏見から来ているものではなく(汗)、複数の業界関係者の方との議論(もちろん、自分の経験も含まれます)の中にあります。

 

それは、「ATMOSの後塵を拝したAuro-3Dは、先行してすでに普及しているATMOSとの互換性を無視するわけにはいかなかった」という<大人の事情>があるのだそうです。

 

見比べていただければ明らかですが、ATMOSに無くて、Auro-3Dだけに配置の規定があるSPは二つあります。一つは、HC、つまり、センターハイトSP。もう一つは、第三層(ATMOSは二層構造)のT、つまりVOGですね。

 

これらは、いくつかあるATMOSとのSPレイアウト上の違いの一つですが、もちろんAuro-3Dは音響理論的な必要性(後述)を認めて定義しているわけであって、車の色やデザインのように、「単に差別化を図るため」ではありません。それゆえ、これらのSPはある意味、Auro-3Dの音響理論の中核を形成している、とすら言う事が出来ます。

 

しかし、Auro-3Dが登場したとき、市場ではすでにATMOSが席巻し、常に最先端を求める熱心なAVファンはATMOS用にスピーカーを配置し終わっていたわけです。そこに後発なのに「ATMOSSP配置では不十分です。こことここにもSPを配置してください」といえば、Auro-3Dの魅力的なNativeソフトがまだ少なかった当時では、多くのAVファンが「そんなめんどくさいことをしなければならないのなら、ソフトの少ないAuro-3Dなんかやらない」と言い出すのを恐れたわけです。

 

ゆえに、Auro-3Dは<大人の判断>で、Auro-3Dの音響理論の中核を形成しているこのHCとTが無い、「ATMOS配置のままでも、Auro-3Dは十分に楽しめますよ」とアピールせざるを得なかったと、先の業界関係者は明かしてくれました。だから、HCとTがないレイアウトでも「推奨」としたり、「非推奨」とは書かないのは、決してAuro-3D側の本音ではなく、こうした「大人の事情」だということです。

 

この『入門』では、そのような忖度無しに(笑)、ベストのAuro-3D環境を追求していますから(妥協案は後述)、その観点からもう一度、10-11ページにある星取表を見ると、「推奨」となっている「Auro 9.x」、それから、「ノーコメント」(笑)となっている、「Auro 10.x」、「Auro 11.x(7+4)」の三つは、私<Auro3D>的にはお勧めいたしません。理由は単純、HCT(または両方)が定義されていないレイアウトだからです。

 

つまり、私<Auro3D>の推奨する、「Auro-3D十全に堪能できるSPレイアウトは、「Auro 11.x」か、「Auro 13.x」かのいずれか、ということになります。

 

3-2. なぜ、HCTVOG)が重要なのか?

 

これは、「Auro3D教」という宗教ではありませんから(笑)、「私の言うことに盲目的に従え!」というつもりはありません。ゆえにここでは、拙いながらも私が専門家と議論し納得した(そして自分でも実験を繰り返しその必要性を確信している)、HCVOGAuro-3Dの構築する音響空間になぜ欠かせないのかを説明したいと思います。

 

まず、一般論として、Auro-Dは、他のイマーシブフォーマットに比して、前方からの音を重視しています。これは、他のフォーマットは映画音再生を重視しているため、「音が前後左右上下に散らばっている」ように聴こえることを重視しているのに対し、Auro-3Dは(主観では=笑)音楽再生を重視しているため、「音楽が自然に聴こえるよう、フロント側の音質・音場・音像の質を上げる」ことに注力しているからだと思います。

 

この方針の違いが、フロント側に6台と、ATMOS5台より1台スピーカーが多い配置の定義の違いとなっているのです。

 

もちろん数だけの問題ではありません。第一層のLCRが最重要というのは、Auro-3DATMOSも同じですが、それを「総二階建て」にしろというのがAuro-3Dです。このフロントスピーカーを第一層と第二層に各3台ずつ、「垂直の壁」のように設置することは、Auro-3Dのスピーカー配置のキモです(設置方法の注意点などについては詳しくは後述します)。ここで特に強調しておきたいのは、この壁のようにSPを配置することで、「平面波」を作り出すことをAuro-Dは狙っているという点です。

 

音というのは空気の波であることは前述しましたが、これは水面に石を落としたように、同心円状に広がる性質を持ちます。つまり、SPからの音は、前だけでなく横や後ろにも出ているということです。もちろん、スピーカーシステムはバッフル面とかスピーカーの形状などを工夫して、SP前方にあるLPに対して効率よく音波が届くように設計はされており、その効果は特に高域に行くほど高いのですが、波長の長い低域ではどうしても音は丸く広がっていきます(球面波というそうです)。球面に拡散していくので、スピーカー正面にあるLPに届く音波のエネルギーは元のエネルギー(スピーカーユニットを動かしたときに使ったエネルギー)よりかなり減衰してしまいます。これは中高域に比してビームの方向を絞りにくい低域ほど顕著になります。つまり、我々が普段スピーカーから出ている音を聴く場合、低域に関してはかなりエネルギーロスをした、投入したエネルギーの割には小さな音量の低音を聴かされているのです(このため、AVアンプのf特補正では、低域を持ち上げていることがほとんどです)。

 

しかし、同じ球面波を、複数カ所で同時に発生させると、音波の相互干渉が生じて、単一音源であれば左右に逃げていく音波が、ぶつかり合って前に進む現象が起きます。これを「平面波の形成」というそうです。試しに、お風呂に入った時に水面で実験するとこの現象が確認できると思います。水面は二次元ですが、空間は三次元なので、「平面波」現象は、左右だけでなく上下も、つまり三次元空間で発生します。

 

この「平面波」の形成には、SP間に適切な距離が保たれていることが重要です。ここで前章で触れた、「SPの大きさに応じた適切な距離」という概念が理解できると思います。つまり2chでもLR間に適切な距離を取ることで「平面波」風のものが形成されることが重要で、SPのサイズに比して離れすぎていると、いわゆる「中抜け」という現象になってしまいます。

 

話をAuro-3Dに戻すと、Auro-3Dでは、このフロント側の6本のSPで、リスナーの前に巨大な三次元の「平面波」を作ることを狙っているため、この「平面」に「穴」を空けないよう、HCを入れているのです(これはもちろん、「センターレス」と言われる、フロントをLRだけで構成するのがなぜAuro-3Dの『マニュアル』では<すべて非推奨>なのかの理由の一つでもあります。音楽だけでなく、映画もマルチスピーカーで楽しみたい(多くは、ATMOS?)方は、センタースピーカーがスクリーンやTV画面に干渉するのを嫌って、止む無く「センターレス」にしておられると思いますが、センターSPとスクリーンなどについての「共存方法」については、いくつかの実践例を後ほどご紹介したいと思います)。

 

普段聴きなれている2chソースを、前方に6台のフルシステムを備えたスピーカーレイアウトで、Auro-Maticという「疑似Auro-3D化」するUpmixで再生したことがある人は、急に低音が良く響くようになることに驚かれた経験がある方は少なくないでしょう。ここまで読んでこられた方は、これは、Auro-Maticが低域をブーストするように作られているからではなく、「平面波」が形成されたことでそれまで左右上下に逃げていた低域のエネルギーがLPに向かったためにおこる現象だということが、納得できたと思います。「平面波」は、SP間の距離を短くすれば、中低域でも形成することが可能なので、HCをちゃんと入れて、前方の6台のSPが1.5-2Mぐらいの間隔で「スクラム」を組むことができていれば、ボーカルなどの実体感も増すことに気がつかれるでしょう。

実は、HCを入れることできれいな「平面波」を形成することのもう一つ重要なメリットに、「奥行き感の創出効果」があります。人間が音の遠近感を感じるメカニズムには、音の大小とともに、二つある耳に届く音の時間差によって、届いている音が「平面波」なのか「球面波」なのかを聴き分けることも入っているそうです。音というのは、発生源から、風船が膨らんでいくように球面に広がっていくわけですが、発生源から遠くなればなるほど、球の半径が長くなるため、左右の耳に届く音の時間差が無くなっていきます。つまり、左右の耳の幅が15センチあるとして、音源との距離が1Mしかない場合は、顔の向きに拠っては最大15%(1Mに対し、1.15M)の音波の届く「時間差」ができますが、これがもし、10M離れていると、球が大きくなるので、最大でも1.5%しか音波の届くタイミングがずれないことになります。つまり、10M離れた場所における音波は「平面波」に近づくということです。

人間の耳は、この左右の耳に届く時間差の大(=球面波)と小(=平面波)を聴き分けることによって、音の発生源が近いか遠いかを判断する材料にしているというわけです。

この原理を理解すれば、Auro-3Dが遠近感を創出しやすいことがわかると思います。つまり、Auro-3Dは上述したように平面波を作りやすい構造になっているため、音響エンジニアが例えば「遠来の雷鳴」であることを演出したい場合は、フロントの6台すべてにその音を入れることにより、「雷鳴」の平面波を作ればよいわけです。もしこれが、極端に言えば、1chシステムであるとすると、「遠来の雷鳴」も「直近の雷鳴」も、一つのSPから出る「球面波」になってしまうため、遠近感が損なわれてしまうのです。

 

最後にHCを入れるメリットはもう一つあります。それは、言うまでもなく、上方の音像定位感が増す、ということです。HCレスの場合は、Auro-3DのフォーマットによってHCに振られている音は、HLRによるファントム再生となるわけですが、ファントムはあくまでも「幽霊」であり、(足のある=笑)「生身・実体」とはそのリアリティに置いて比べるべくもありません。しかも、例えば、録音エンジニアが、CとHCの間に音像をファントム定位させようと思って、CとHCにそれぞれ同じ音成分を振った場合、HCレスだと、「ファントムHC」とCとの間の「ファントム」定位ということになります。つまり、幽霊を利用して、さらに幽霊を作ることになり(笑)、定位感が大きく損なわれることは言うまでもありません。

 

上方の音の定位感というのは、普通のクラシックなどの再生音だとあまり重要ではない(普通のオケだとその位置に「楽器」はないため)ように感じられるかもしれませんが、意外にAuro-3Dの録音現場では重要だそうです。まず第一に、バンダや合唱などがオケより一段高いひな壇に配されている演奏は少なくありません。私<Auro3D>が最近聴きに行ったベルリオーズの『レクイエム』でも、オケよりかなり高い「バルコニー」?のような位置に、バンダのトランペットやトロンボーンが配されていました。このような曲をAuro-3Dで再生する場合、HCレスでは、せっかくのバンダからの強烈なトランペットの咆哮が、ボケたものになってしまい、音楽的な感動が薄れかねません。

また、このような実体的に高い位置に楽器が無い演奏でも、実は音響効果を重視した多くのコンサートホールでは、オケの上部に反射板のようなものを設置して、上方に逃げていく音を客席の方に向けるような仕組みになっているところは少なくありません。このようなホールで聴く交響曲などが、「高さ感」に優れるのはこのためで、つまり、このようなホールでは、上方に強力な「一次反射」ポイントがあり、そこからの音もかなり我々の耳に入っているのです。HCがあれば、この「一次反射」音をより正確に再現することができる、というわけです。

 

次に、Auro-3Dにおける、VOGの役割について、説明したいと思います。

 

原文のGuidelines7ページには、「頭上を飛行機が通るような絵」が描かれていますが、実は、現状、VOGに音情報が入っているAuro-3Dのソースは、ほとんどありません。一般に入手可能な映画や音楽のソフトで、私が持っているものの中で、VOGに音を振ってあるAuro-3Dフル13ch版になっているのは、『Twister』という映画のBDソフト(ただし、海外輸入版)しかありません。はっきり申し上げれば、今後はともかく、現状のAuro-3Dソフトを再生することだけを考えれば、VOGを設置することは無駄の方が多い、ということになります。

 

VOGAuro-3Dが設計段階で組み入れた理由は、Auro-3Dが規定する第二層のハイトスピーカー群の高さ(角度)が2540度(『マニュアル』p.21の「仰角」)と、ATMOSが規定する、トップフォーワードスピーカー(TFw)の3055度や、トップバックワードスピーカー(TBw)の3560度に比して低いため、VOGなしだとATMOSに比して頭上に音の空白エリアができてしまうからだそうです。もちろん、Auro-3Dの第二層がATMOSに比して低め、つまり第一層と第二層が比較的離れないように規定されているのにはもちろん音響的理由があり、それは、第一層と第二層の間に音空間の連続性を保てることで、さらに先の「平面波」の形成とも関係してきます(離れすぎていれば「平面波」に穴が開く)。

 

では、現在流通しているAuro-3Dの音源(映画含む)にVOGを使ったものが非常に少ないということは、そこまで上方の空間を音で満たさなければならないようなコンテンツが無いのではと思われるかもしれませんが、実際には尖塔の教会で録音されたオルガンや合唱のような(お勧めソフトについては後程紹介します)、Liveであれば「頭の上から音が降ってくる」ことが実感できる音源のものが多数あります。

 

実は、Auro-3Dをデコードするソフトには、Auro-MaticというUpmixコーデックが組み込まれていますが、このAuro-Maticは、オリジナルソースが2chでも、5chでも、組み込まれているAVアンプが規定する最大のAuro-3Dフォーマットに拡張して再生するようなアルゴリズムになっています(AVアンプの独自のコントロールが入っているものもある可能性はあります)。もちろん、9chなどのミニマムのAuro-3Dネイティブソフトの再生に際しても、もし、AVアンプ側が13chのフルスペックに対応していれば、13ch化して出力してくれます。つまり、VOGをハンドルできるAVアンプで、VOGを設置していれば、Auro-MaticでもAuro-3DでもVOGから音が出ているということです。

 

この効果がどれほどのものかは、実際に聴いたことの無い方には、「想像してください」というしかありません。東京の関口教会とか、イギリスのセントポール大聖堂、バチカンのサンピエトロ寺院などでオルガンや合唱などを聴いたことのある人は、「上から音が降ってくる」という表現が大げさなものではないことがお分かりになられると思いますが、VOGがあるAuro-3DMatic)による再生音は、この音場感をかなりリアルに表現できます。私が第一章で<あなたのAuro-3D度チェック>をしたのは、「音が前からだけ来る、残響音の少ない音場感が好き」か、「囲まれるような音場感が好きか」を見極めるためでした。そして、このVOGこそが、「囲まれ感」創出のカギを握っており、その意味では、「Auro-3Dのカギ」の一つでもあるのです。

 

もう一つ、「本来は」VOGには重要な役割があります。ここで「本来は」と書いたのは、前述のように、現状、VOGに音が振ってあるソフトが極めて少ないからです。その「重要な役割」というのは、前方上方の音像定位感を補強する役割です。

 

この役割は、残念ながらAuro-Maticでは発揮されません。オリジナル状態からVOGに音が振ってあるソフトだけに期待できる役割です。つまり、13ch(または11ch)で録音・再生できる音源でなければ、この効果は発揮できません。

 

実は、私<Auro3D>は、この13ch音源をいくつか聴くことができます。それは、WOWOWという衛星放送局が実験的に取り組んでいる、Auro-3Dのストリーミング再生のテスターの一人として、特別にいくつかの音源にアクセスさせていただけるからです(詳細は後述します)。

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残念ながら現時点ではまだ市販されていませんが(ご関心のある方は、是非WOWOWに市販の可能性・時期などを問い合わせてみてください。https://www.wowow.co.jp/support/contact/entry.php 問い合わせが多ければ多いほど、事業化の可能性が高まりますので!)、この音源の中には、関口教会で録音されたマリンバの演奏とか、サンピエトロ寺院で録音された、合唱付きオーケストラ曲(ベルディの『レクイエム』など)があり、私は、これらの13chフルスペックのAuro-3Dによる再生音を、VOGの有り・無しで聴き比べたことがあります。

 

一般の音楽の場合、「前方上方」には何かの楽器が配置されているわけではありませんが、大きなドームのようなところでの演奏の場合は、一次反射音がそこに存在します。この反射音の明確な存在感が、VOGの有り・無しでははっきりと違ってくるのです。

 

これは、映画などで、前方上方からの、例えば射撃音などが入っているようなものであれば、もっとはっきりするでしょう。『マニュアル』にあるように、ATMOSと違って、Auro-3Dはチャンネルベースですから、前方上方(ハイトスピーカーとVOGの間)に音を定位させる場合、Auro-3Dが定義する「正しい位置(角度)」にすべてのSPが設置されていなければ、そもそも「そこから音が出せない」わけですから。

 

つまり、確かにVOGを使うソースの少ない現状では、VOG設置の意義は薄いかもしれませんが、すぐ近い将来に(Hopefully!)、13chフルスペックの映画ソフトとか、音楽ソフトが流通するようになる時に備えて(!)、今、あなたがAuro-3D用の部屋を作りスピーカーレイアウトを検討しているのであれば、LPの真上にも是非、最低でも配線だけはしておくことを強くお勧めします。

 

3-3. 11.1か、13.1か?

 

さて、3-1で、私<Auro-3D>が推奨する、Auro-3DSPレイアウトは、11.x5+5+1)か、13.x7+5+1)の二択であると断言しました。その理由は前節で述べましたが、では、この二つの違いは何なのでしょうか?単純にレイアウト図を見れば、サラウンドバックの二台(LRb)の有無ですね。『マニュアル』17ページの図2にその配置の一例が掲載されています。Auro-3Dが規定する、厳密な角度については、21ページの表3にあります。

 

この表の「標準」と書かれている数値を見ると、サラウンドは110度、サラウンドバックは150度とあり、これは第一層が5ch配置(11.1ch)でも、7ch配置(13.1ch)でも変わらないようです。

 

これだけを見れば、部屋の形状・大きさという観点から第一層を5ch7chにするかは、LPの後ろの空間がどれだけ取れるかによる、と言えましょう。

 

しかし、実践的には、第一層を5chにする場合と、7chにする場合では、サラウンドSPの位置は変えるべきだ、というのが私の経験と専門家からのアドバイスの中で得た結論です。

 

以下の写真は、Bob James Trioの『Feel Like Making Live!』というアルバムの、ブルーレイ版に作られた、ライナーノートです。この最後の4ページをお書きになったのは、文末にCreditがあるように、Hideo Irimagiri, 3D Immersive Sound Creator です。実はこの方、先に触れましたWOWOWのエグゼクティブ・クリエーター、入交英雄さんのことです。私はこの方とはWOWOWの主催するスタジオツアーで知り合い、その後偶然にも私の別荘と彼のご自宅が比較的ご近所ということから、何度か行き来をするというお付き合いをさせていただいています(ある意味、この『入門』の筆者が私<Auro3D>であることのAuthorizationを、彼とのご交誼がしてくれています=笑)。

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 さて、この最後のページにあるFigure6とFigure 7を見比べてみてください。Figure 6は正規の5ch配置の角度を保って描かれていますが、7ch版のFigure 7は、サラウンドSPLP真横の90度、サラウンドバックSP135度の位置に描かれており、いずれもAuro-3Dの「標準」値からは離れていることがわかると思います。私はこのレイアウトを、「入交セッティング」と呼んで、自身でも実践しています。

 

なぜこの配置が、7chに於いて「標準」配置より優れていると入交氏(と私)が考えているかというと、『マニュアル』の20ページの図8にあるような配置では、LPより「前に3台、後ろに4台」のSPがありますよね。私は先に、「Auro-3Dはフロント(前からの音)重視である」と書きました。でもこのSPの配分だと、まるで後ろからの音の方を重視しているような感じがしませんか。

 

実際にAuro-3D他の様々なマルチ録音を手掛けてこられた入交氏によると、「人間は前の音の定位に関しては敏感だが、後ろの音の定位に関しては鈍感だ」そうです。この「標準」配置だと後ろに4台もあるわけですから、後ろの音の定位をミキシングで操作しやすいのは事実だそうですが、実際にはそれをやっても人間には聴き分けられないため、「無駄な努力」になってしまうわけです。

 

しかも、これが映画の効果音(足音など)ならまだしも、最初に強調したように、Auro-3Dは音楽再生に特色のあるフォーマットです。音楽は余程特殊な録音をしているもの(Pink Floydの『狂気』のように)以外は、前方から音が来るのが普通ですよね。クラシックであれJazzであれ、我々が音楽に向き合う時はフロントの音に注意を向けます。もちろん、サイドやリアからの反射音はありますが、それはそこまで定位感や実体感が重要な音ではなく、いわゆるAmbient(環境)音なわけです。それであれば、2台で十分でしょ、というのが、この「入交セッティング」のポイントの一つです。

 

この「入交セッティング」のもう一つのポイントは、サラウンドを90度の位置に置くことで、30度にあるLRとサラウンドLRの開き角が60度に狭まります。入交氏によると、「音像定位を明確に知覚できるスピーカーの開き角は60度が限度」とのことで、つまり、90度の位置にサラウンドを置くことで、LRとサラウンドLRの間に、精密な音像定位を設計できるようになるわけです(ちなみに、ATMOSでは、LRとサラウンドとの間に、「フロントワイド」と呼ばれるSPを定義して、民生用の第一層はMax9ch配置を推奨しています)。そのため、90度にサラウンドを置くと、楽器がLRの外側に広がって定位するようになります。特にオーケストラなどでは顕著で、コンサートの前から5列目ぐらいの席で聴いている感じが得られます。

 

ただし、この「入交セッティング」は良いことずくめではありません。まず、もしこの配置のまま、普通の5chソース(例えばSACDマルチ)をNative再生すると、普通の5chソースはサラウンドSPの位置として110度を標準として制作されているので、録音エンジニアが意図した(Director’s intention)音像定位の位置より、左右に広がり過ぎる可能性が出ます。

 

このデメリットを避けるには、①5chソースをどうしてもNativeで(そのままで)再生したい場合は、サラウンドSPの位置を都度110度の位置に移動させる②5chソースを7ch化して再生する―の二つが考えられます。

 

前者はより原理主義的な方法ではありますが、スピーカーを移動させるというのはなかなかハードルが高いのではないでしょうか(ちなみに、私はキャスター付けてますが=汗)。後者の場合は、5chソースに含まれるサラウンドSPに振られている音響成分は、7chで再生する際にはサラウンドとサラウンドバックに均等に振り分けられるのが一般的なコーデックですので、この場合、figure7通りにサラウンドを90度に位置に、サラウンドバックを135度の位置に置いたとすると、112.5度の位置に「5chのサラウンド音」がVirtual定位するわけです(どうしてもITU定義の「110度」に拘りたい方は、サラウンドバックを「130度に置けばいい」ということになります)。ただしこの場合は厳密に言えば、サラウンドとサラウンドバックに同じSPを使う必要があります。

 

「入交セッティング」の現実的なもう一つの問題点は、この章のテーマである、「スピーカー配置と部屋の形状」に大きく関わります。つまり、サラウンドSP90度に置くということは、距離補正(Delay)を使わないのであれば、LCRとの同心円状の距離に置く必要があるわけですから、かなりの距離が必要です。つまり、第二章で述べたような理想的な部屋、すなわち円か五角形か正方形(この場合は反射の問題あり)に近い形のオーディオルームが必要になります。もちろん、Delayを入れても構わないのであれば、これは何の問題でもないかもしれません(ただし、近すぎる場合はSPによっては「近接効果」が出ます=後述)。

 

結論的に言えば、Auro-3Dを音楽フォーマットとして考える場合は、一番肝心なのはフロントの上下6台であり、第一層は5ch(=11.1ch)でも7ch(=13.1ch)でもそんなに大差はありません(後述しますが、ATMOSとの共用を考えているのであれば、SBがあった方が確実に効果的なソフトが数多くあります)。ただし、5ch(=11.1ch)7ch(=13.1ch)ではサラウンドSPの理想の配置位置が異なるので、その点は、ご自分が用意できるお部屋との兼ね合いで決定したらよいと思います。

 

2023年2月11日 (土)

『Auro-3D入門』<準備編>(2.何から始めるのか―まずは部屋の確保)

2.何から始めるのか―まずは部屋の確保

 

ここに読み進んでいる方は、先の「テスト」で、「Auro-3D」という音楽フォーマットが作り出す世界にあなたの好みの音楽や聴き方がMatchしている方々ですね。では、次のステップに参りましょう!

一般論としてのAuro-3Dの<特徴>は『マニュアル』の1「イントロダクション」に譲るとして、この<特徴>を十全に発揮させるためには、ある程度慎重に選んで揃えた方がいいものがいくつかあります。

 

ここでは、「今は何も手元にない」が、「Auro-3Dのためにゼロから準備したい」という方に向けて、まずは書いていきたいと思います(実際には、恐らく、すでになにがしかのオーディオには取り組んでおられる方の方が多数派だとは思いますが、それは「実践編」として、後程触れたいと思います)。

 

Auro-3Dはヘッドフォンでも「疑似体験」できるように研究中のようですが、それはあくまでも「疑似」であって、「本物」のAuro-3Dはその音楽を再生する「空間」、つまり「部屋」が必要です。

 

ここでは、あなたが、「これから家を建てる、またはお部屋を増改築する、またはたくさんのお部屋を持っていてそのうちのどれかを選べる」、のいずれかというとてもラッキーな状態の方(笑)であるという前提で、Auro-3D再生に向いている部屋とはどのようなものが望ましいのかを整理してみます(『マニュアル』3.1「Auro-3Dを導入するリスニングルームについて」(p.15)も併せて読んでください)。

 

2-1. 床の面積・形状

 

すでに『マニュアル』で把握済みとは思いますが、Auro-3Dは高さのある3層構造を必要とします。その中でもやはり一番出音に影響を与えるのは、リスナーに近い、第一層、つまり床に置くSP群です。そして『マニュアル』にある通り、この第一層のSP群は、ミニマム5台必要です(センターSPの必要性の理由は後述)。リスニングポイント(以下、LP)の前にLCR3台、横から後ろの位置にサラウンドのLR(以下、『マニュアルの表記に準じて、LsRs)の2台が必要となります。

 

ニアフィールドリスニングは、日本の住宅事情もあって、2chでは比較的ポピュラーな形態ですが、Auro-3Dの場合は、個人的にはお勧めしません(理由は、「近接効果」を避けたいからです。後述します)。つまり、手のひらに乗るような超小型SPLPの近くにたくさん揃えるのではなく、ある程度の大きさのSPを、それにふさわしい距離を取って配置することをお勧めします。SPの選択については後述するとして、「ふさわしい距離」とは、どこからどこまでの距離で、どのくらいの距離を取ればいいのか、つまり、まずはどのくらいの部屋をイメージすればいいのでしょうか。

 

最初にお断りしておきますが、この『入門』では、すでに長年の積み重ねのある2chオーディオの世界の「常識」についてはあまり詳しくは触れない方針です。これらに関してはすでにたくさんの本なりサイトなりがありますので。ゆえに、「スピーカーの大きさに応じて、取るべき距離がある」というような2chのセオリーを準用すれば、つまり、使いたいSPの大きさと数によって、必要な部屋の広さは変わってくる(後述)のは言うまでもないのですが、以下は、「標準的な」大きさのSPを使う場合を前提に話を進めます。

 

Auro-3D2chと異なり、SP数が多くなります。基本的には同じ「電気」と「スピーカー」を使う音楽再生ですが、ただSPをたくさん並べれば良い、というものではありません。スピーカーには大きさや再生方式により、それぞれ、「相応しい守備範囲=全周波数帯域に渡って、ある一定程度の強さの音圧が得られるエリア」というものがあり、守備範囲があまりに重なってしまうと、サッカーで言えばディフェンダー同士がお見合いをして突破を許す、というようなことが起きてしまいます(具体的には、「位相」や「ディレイ」、「音のつながり」、というような問題です=後述)。

 

私が、長くAVショップでインストール(導入・設置)の仕事をして来られたベテラン営業マンさんに伺ったところ、(スピーカーの大きさにもよるが)「一般論として1M以上はスピーカー間の距離を取った方がいい」とのことで、「これ以上間隔を狭くしないと入らないほどの数のスピーカーを設置するのは、マルチの再生に於いて無駄が多い」とおっしゃっていました。ここでいう「スピーカー間の距離」とは、基本的にはツイーターの位置を基軸に考えてください。つまり、以下に「スピーカー間の距離」や「スピーカーと壁との距離」という場合、ツイーターとの距離を指します(これはツイーターがカバーする高域音が最も「一次反射」(後述)しやすいからです)。

 

これから考えると、まずLCRを置く部屋の幅ですが、LCR間が各1M、つまりLR間が2M、そしてLRと左右の壁との間は最低0.5Mは空けたいと考えると、合計3M以上の幅が欲しいところです。このようにスピーカーの周りに一定以上の空間が必要な理由は、「反射」と呼ばれる、壁・床・天井といった、我々が生活をする「部屋」には必ず備わっている「比較的硬く、ある程度の厚みのある、平滑である程度の面積のある部分」に音波が当たって跳ね返る現象による影響を低減したいからです。

音は、空気が媒介する波であり、波は固いものにぶつかると反射して向きを変えます。「一次」反射とは、最初にいずれかの壁(以下、天井も床も「壁」と表現します)に当たってから、我々の耳に届くものを言います。スピーカーから出た音は、壁に囲まれた普通の部屋の場合、直接音(何にもぶつからずに届く音波)と、反射音(ビリヤードのように、1次から始まって、X次まであり得ます)の双方が混合されて聴こえています。このうち、「一次反射」音が、直接波の次に最もエネルギーが大きいため、我々の聴感に最も影響を与えるのです。

 

Auro-3Dによる推奨レイアウトでは、このLRを一辺とする正三角形の頂点にLPが来ます。そして、サラウンドSPLRs)や、7chにする場合に追加するサラウンドバックSP(以下、LRb)も、この正三角形の一辺を半径とする同心円状に配置することになっている(『マニュアル』p.20の図8を参照)ため、理想は、半径2Mの円が入る部屋が望ましいわけです。

 

ただし、特に「音質・音像・音場」形成上重要なフロントのLCRは、背面の壁からの一次反射を避けるためにできれば1M以上、最低でも0.5Mは離して置きたいところです。

 

つまり、ここから算出できるAuro-3Dを展開する理想の床の広さは縦が約5M、横が約4M以上の空間ということになります。これだけの距離があれば、後述しますが、Auro-3D定義上のフルスペックである、「13chSP配置」も可能だと思います。

 

次に、部屋の形状に関してです。2chオーディオの世界では、「定在波」と呼ばれる、「部屋の構造に固有の音波の周波数の強弱」が発生しにくいように、「変形部屋」が望ましいとされています。つまり、なるべく向かい合う壁(天井と床も含む)が平行にならないように工夫されたオーディオルームがベストであると。実はこの原則はAuro-3Dも同様なのですが、一つ異なるのは、Auro-3Dでは、置くべきスピーカーの位置(LPから見た角度)がかなり厳密に決められており(後述)、フルスペックの13chでは、第一層はLP7台のSPで取り囲むように設計されています(後述)。しかも、<理想的には>各スピーカーとLPとの距離は「等距離」とされているため、部屋の形状も円、またはそれに近い形の多角形が望ましいのです。

 

ゆえに、「壁と各スピーカーの位置関係の対称性」の観点からは、円形の部屋か5角形の部屋がAuro-3D的にはベスト4角の部屋であれば、細長い部屋よりは正方形に近い方がSPレイアウト的には有利なのです(ただし、「定在波」など音響的な問題が発生する可能性がありますが、これへの対応法については実践例を後述します)。

 

ここで強調しておきたいのは、先にも書きました通り、Auro-3DではLPから見たSP群の角度がとても大切という点です。最新のAVアンプは様々な音響補正ソフトが組み込まれており、もちろん、「補正」をするということは、理論的には音質を劣化させるので、原理的には、「無補正」が良いに決まっているのですが、現実問題としては、「無補正」で13台のSPを揃えて理想の位置に配置できるケースは非常にまれです。ということは、<必要悪>である「補正」を最小限にするよう、優先順位をつけるべきだと思いますが、この、「スピーカーの設置位置=LPからの角度」というのは、電子的な補正を行うことはかなり難しい(実際にSPを置いていない位置から音が出ているかのように補正することは可能ではありますが、「そこにある、実体的なSP」と全く同様の機能・効果を果たすことは絶対にありません)のです。

 

つまり、「スピーカーの設置位置=LPからの角度」というのは電子的に補正しにくいゆえに部屋を考える際の優先順位が高い、ということです。Auro-3D用の部屋を決める際には、「部屋の大きさに応じたSP数を決めるか、または設置したいSP数を先に決めて部屋のサイズを検討」(後述)したうえで、その形状を、「Auro-3Dの規定するところにSPが置ける部屋の形」にすることを強くお勧めします。

 

2-2. 部屋の天井の高さ

 

これは普通の2chオーディオではあまり言及されない要素なのですが、3次元のSP配置を求められるAuro-3Dに於いては、部屋の天井の高さは重要なポイントです。簡単に言えば高ければ高いほどいい(笑)のですが、まあ実際上、誰もがゴチック建築の教会に住めるわけでもないでしょうから、少しポイントを整理してみましょう。

 

先に紹介した、「SP間は1Mぐらいは離したい」という原則は、もちろん左右だけでなく上下にも当てはまります。『マニュアル』にあるようにAuro-3Dでは最低2層、できれば3層構造のSP配置が必要で、特に第一層と第二層のSPは垂直関係(つまり、第一層の各SPのほぼ真上に第二層の各SPが来る)にあるよう指定されています。では、この垂直関係にある二つのSP間の距離を1M 取るには、どれぐらいの天井高が望ましいでしょうか。

 

第一層のSPで特に重要なLCR3台は、2chのセオリーと同様、リスニング時の耳の高さにツイーターが来るべきです。普通、床に胡坐では聴かないと思いますので(笑)、椅子に座るとするとあなたの座高にもよりますが(笑)、大体1Mぐらいの高さに耳が来るかと思います。すると、そのLCRのツイーターの高さが1Mにあるはずですから、そこから1M以上離れたところに、第二層のSPのツイーターが来るべき、ということになります。というとそれを合計すると2Mになりますね。ただ、これも後述しますが、第二層のSPが天井に接しているような置き方では、「一次反射」の問題から音響的にはよろしくないのです(2chのセオリーでもスピーカーの周りには十分な空間が必要とあります)。つまりここも、先のLRの横の壁の関係と同様、理想的には最低0.5Mは離したいのです。となると、これを加えれば2.5Mということになります。

 

最後に第三層のTopスピーカー(Voice of GodというNicknameがAuro-3Dではついていますので、以後、VOGと表記します)は、一本だけで、第二層のSPと垂直関係にはない(後述)ので、第二層と第三層のSPの高さの差は0.5Mほどもあればいいと思います(VOGは間違いなく他のSPから1M以上離れると思いますので)。

 

ということで、三層構造のAuro-3Dを考えているのであれば、天井高は3M以上を確保(VOGを天井埋め込みSPにできるのであれば、2.5MでOKしてください、というのが、理想と言えます。

 

後ほど紹介する実践例を見ると、平屋や2階建ての2階の部屋のように、部屋の上が屋根になっている場合は、屋根裏部屋を作らない構造にすれば(その分、断熱や遮音の工夫が屋根に求められますが)、かなり部屋の天井の高さを稼ぐことができ、かつこの場合は、勾配天井となることが多く、定在波防止の観点からもメリットがあります。是非、新築・リフォームの際には検討してみてください。

2023年2月 9日 (木)

『Auro-3D入門』(1.あなたはAuro-3Dに取り組むべきか?)

1.あなたはAuro-3Dに取り組むべきか?

 

いきなりですが(笑)、下記の質問項目に答えて、ご自分の音・音楽への趣味がどの程度Auro-3Dに向いているのかをチェックしてみてください。後述しますがAuro-3Dはそれなりのスペースとおカネと労力(+家族の理解?)を要するものです(汗)。しかしAuro-3Dは必ずしもあらゆる音楽再生に対して万能であるとは私は考えておらず、Auro-3Dには向いている音楽やその聴き方というものがあるというのが私の経験則です。ゆえに「せっかく、苦労してAuro-3D環境を構築したのに、2ch(あるいは5.1ch)で再生する音楽の聴こえ方のほうが自分の好みだった」となっては申し訳ないので(汗)、本格的に取り組まれる前に、参考までに以下を試してみることをお勧めしておきます(笑)。

 

<あなたのAuro-3D度チェック>

 

Q1.  オーディオで音楽を聴く際には、きっちりと椅子に座って微動だにせずに真剣に聴くより、ゆったりとリラックスした姿勢で聴きたい

Q2. ピアノ(ジャンルは、クラシックでも、JazzでもPopsでも)の生音(LIVE)を聴くなら、天井の低い会場より高い会場の音の方が好み

Q3. スピーカーで音楽を聴く際、サランネットを付けたままの方が、外すより好きだ

Q4. JazzLiveを聴くなら、後ろの方でワインを飲みながら聴く方が、かぶりつきで聴くより好きだ

Q5. Rock/Popsの録音再生なら、スタジオ録音盤よりライブ盤の方が好きだ

Q6. Classicなら、弦楽四重奏曲より交響曲の方が好き

Q7. カラオケで歌を歌う時、エコーをかなり効かせる方が、なるべくエコーを抑えるより好き

Q8. ちゃんとしたスピーカーによる音楽再生(2chでもマルチでも)を聴くなら、洋室で聴く音の方が、和室で聴く音より好きだ

Q9. ドラムの突き刺さるハイハットシンバルの音と、バイオリンの空間に消え入る倍音、自分の琴線に触れるのは断然後者だ

Q10. (パイプ)オルガンのペダルによる重低音とベースのチョッパー奏法の音、自分の琴線に触れるのは断然前者だ

 

上記10問の質問に、Yesと答えた数が:

 

【~3の方】             

うーん、あまり、Auro-3Dの作る音像・音場に感動しないかも(汗)

【4~6の方】           

試してみる価値はあると思います。是非、どこかでAuro-3D(またはAuro-Matic)で、ご自分の好きなジャンルの音楽を聴いてみてください!

【7~の方】             

やるしかないです。Auro-3Dを聴かないと人生損するタイプです(笑)。

『Auro-3D入門』(0.はじめに)

0.はじめに

 

これに目を通そうという方は、「Auro-3D」(おーろ すりーでぃー)という言葉を聞くか読んだことのある方だと思います。でもそれが何だかはよくわからないし、どうすればそれを具現化できるのについて知りたい。また、すでにお手持ちのAVアンプに「Auro-3D」という機能があるようだが、それが例えば、「ATMOSとどう違うのか、どのような特色があって、設置方法で気を付けるべき点があるのか」、について知りたい。さらには、すでに「Auro-3D」は聴いたことがあって気に入ったのだが、これに本格的に取り組むには何をどうすればよいのかをはっきりと知りたい。

 または、AVショップで、「この機種はAuro-3Dに対応していますよ」とのセールストークを受けたものの、その店員が実はAuro-3Dのことをよく知らない…

これはそのような方たちのお役に少しでも立てば、と思い、私<Auro3D>(私のハンドルネームです。ハイフンがない点に注目)がAuro-3Dに対しこれまで取り組み、また多くのAuro-3D実践者を訪ね歩き、さらには多くのAuro-3D業界関係者と議論を重ねたことをまとめたものです。

 

Auro-3D🄬  https://www.auro-3d.com/ が、同社HP内からダウンロードできる形で正規に出している”Setup Guidelines”というものが既にあり、原文は英文なので、それをベースに『「Auro-3D 友の会」編 AURO-3D® 導入マニュアル  Ver.1』というタイトルで、我々の仲間(Auro-3Dの愛好者仲間)で日本語版を作りました(以下、『マニュアル』と表記)。

(『マニュアル』リンク先: https://sites.google.com/view/auro-3d )。

 

以下、この『Auro-3D入門』(以下、『入門』と表記)は、上記『マニュアル』に先にさっと目を通していただいた方を前提に書いていきます。しかし、この『マニュアル』に書かれていることだけでは説明が不十分でよくわからないことも多いと思いますし、実際に取り組んできたものから見れば、実は『マニュアル』には書かれていない重要なポイントや使いこなしのヒントやコツのようなものもたくさんあります。

 

そこで、ある意味『マニュアル』の補足というか、解題というか、『マニュアル』のマニュアル(笑)として、これを書いています。ゆえに『マニュアル』に詳述されていることは繰り返しませんし、ところどころ『マニュアル』からの引用をしますので、是非『マニュアル』と併せてお読みください。

 

この『入門』ですが、最初にはっきりと申し上げておきますが、『マニュアル』の翻訳に際しては、「Auro-3D友の会」の仲間と協力して取り組みましたが、この『入門』は、私<Auro3D>が一人で書いております。個人的な取り組みの成果を基に経験的に自分自身が納得した事を書いており、「Auro-3Dに取り組んでいる方々の総意・合意事項」とはなっておりません。つまり、アプローチとしては決して一つではないものもたくさんあり、ここではその中で私個人がベストだと思うものを提示していますが、それは他のアプローチを否定するものではありません。ただ、入門書ですので、両論併記で書かれるとかえって混乱すると思い、このような方針で書いていきます。「教科書」はあくまで『マニュアル』であり、これは「参考書」の位置づけですので最終的に立ち返るべき場所は「教科書」である『マニュアル』の方であり、これは皆さんご自身が自分なりの「ベストの方法」を編み出す一助になるであろう「経験談」をするというのが先達の一人としての役目だと思って書いております。


「Auro-3D」という新しいフォーマットに対する私自身の立場は、Auro-3Dは、映画用というよりは「音楽用」のフォーマットだと考えており、このことはAuro-3DAuro-Matic含む)を体験された多くの方も同意なさるところです(そもそも、Auro-3Dで制作された映画は極めて少ない)。ゆえに、この『入門』は、「Auro-3Dというフォーマットを利用して、音楽鑑賞を楽しみたい方」をメインターゲットにしています(ちなみに、英文の原文マニュアルには、表題に”Home Theater”が入っていることからも分かるように、「映画の音響フォーマット」としての説明に重点が置かれているようですので、この『入門』とは多少力点が違います)。

 

以下、これからAuro-3Dに取り組もうという方や、すでに取り組んでいて、もう少し、Auro-3Dの再生音をブラッシュアップしたい方などのお役に少しでも立てれば幸いです。