5chソースの、Auro-Matic化 再論
表題に取った「Auro-Matic」とは、このサイトの常連さんには言わずもがな、ではあるが(笑)、<これからイマーシブ>という方がGoogleの検索などでここに辿り着くことが最近結構あるようなので、改めて。
「Auro-Matic」というのは、Auro-3DのNative ソフト(Auroコーデックでエンコードされたもの)ではないソース(2chや5.1chなど)を、<Auro-3D風に>仕立てるUp Mixの名称。これは有名な所でいえば、「Dolby ATMOS」と「Dolby Surround」の関係と同じと考えていただいていい。
だから、「Auro-3D対応」というAVアンプを持っている方であれば、もれなく「Auro-Matic」も使える(ただし、それが使える設定をしていれば=笑)。
先日の入交さんによるWOWOWのセミナーの時も、オーディオショップの方から質問が出たが、Auro-3DのNative SoftにはClassic系が多いため、それ以外のジャンルの音楽がお好きな方が、対応AVアンプとスピーカー配置を整えたうえでAuroの「世界観」?を味わいたい場合は、どうしても「Auro-Matic」のお世話になることになる(AVショップの方でもこの二つを弁別していない方もおられるが、「Auro-3Dを聴く」のと「Auro-Matic」を聴く、のは全くの別物です)。
斯く言う私自身も、Auro-3Dのシステムを揃えたばかりの頃(Marantzの8805=2018年の春=約7年前=がスタートだった)は、Auro-3DのNativeソフトが世の中にほとんどなく、ノルウェーの2Lレーベルが出しているBDを輸入して取り寄せてはいたが、当時はノルウェーの作曲家・演奏家によるアヴァンギャルドな作品が多く(汗)、保守的なClassic好き(笑)としては「二度目は聴かない」(泣)ものが少なくなく、お気に入りのSACD MultiをAuro-MaticでAuro化したものを主に楽しんでいた。
そうした経験を基に、もう何年も前になるが(初出がいつだったかのデータが無い)、Phileweb Communityという、今は亡き「オーオタ交流サイト」で(笑)、Auro-Maticについては自分なりに「ケリをつける」(笑)論考を書いている(これはPhil-Mで保存されているコピー)。
そこの結論部分だけを以下に引用する。
・・・・・・・・・・・・・・・
<Auro-Maticがイケてる「普通のソフト」の条件>
・5.1ch>2ch(やはり、元のチャンネル数が多い音源の方が、効果は出やすい)
・音数の多いもの(大編成のオーケストラなど)
・アヴァンギャルドな演奏(ストラビンスキーなどの20世紀音楽。例えばシェーンベルグはピアノソロでも最高!)
・オルガン、合唱(つまり、バロック系のミサ曲なんてバッチリです)
・金管楽器(ビブラフォン含む。木管も悪くないですが、金属音の方がどうもAuro-Maticがより得意とするようです)
・教会などの高さのある(またはOpen Air)録音現場(これなら、RockでもJazzでもイケます。オペラはオペラハウスでのLiveならホール感を伴う声楽を楽しめる=風呂場のカラオケ状態?)
<ダメなものの条件>
・Pops やJazzのスタジオ録音盤のボーカル(どうしても口が大きくなる)
・On 録音されているピアノソロで、ホール音があまり収録されていないもの(アタック音などが甘くなる。高音の「硬質感」がやや損なわれる傾向。これは音のFocusが2chに比して、どうしても落ちるためと思われる)
・天井の低いJazz Clubなどでの録音(リアリティが落ちる。かぶりつきの緊迫感が無くなり、ゆったり聴けるようになってしまう=笑)
・Rockは録音による。空間感を演出するような壮大なサウンドはOKだが、タイトな音像を求める、シンプルでストレートなスタジオ録音は×(野外ライブはイケる!)
・・・・・・・・・・・・・・・・
基本的な印象は今も変わってはいないのだが、上記記事を書いた時と今では、自身のシステム的にかなり異なっており、特に、ちょうど一年前に主力の5台のSonetto VIIIをチャンデバ・マルチアンプ駆動に改造したことによる「音の変化」はとても大きいものがあると日々感じている。どう違うかと言えば、簡単に言えば、改造のご指南を受けたMyuさんにもはっきり指摘していただいているように、それは駄耳の私でもはっきりと分かる、「まるでスピーカーとパワーアンプをグレードの上のものに総入れ替えしたような」、馬力と瞬発力という、およそSonusらしくない側面(笑)を中心とした再生能力・品質の向上である。
この「向上」は、Sonetto VIII単体の能力向上なので、当然のことながらSWやDirac Liveなど、「他の力」を借りていない状態どうしの比較の方が差がはっきり出る。拙宅では、「2chソースを2chで聴きたいとき」は、かつてはAmator III+Octave Class Aの組み合わせを使っていたが、チャンデバ調整後は、Sonetto VIII2台とLPで理想的なポジショニングを作った環境に移動して聴くようになっている(2ch派のMyuさんには、「これ以上、何が要るの?」(笑)とまで言っていただいているが!)。
しかし、5ch再生に於いては、これまでは「5chを5chで聴きたいソース」の場合も、Sonetto VIII5台+SW3台+Dirac Live(ART)というセットで聴くことが多く、Sonetto VIII5台だけの「Pure 5chセッティング」で聴くことはほとんど無かった。その理由は、ARTによる「締まった低音再生」が捨てがたいのと、正直に言えば、Dirac Liveを使わない場合の「様々なパラメーターの手動調整」に自信が無かった&面倒臭かった(汗)からだ。
ところが、この春の「伊豆合宿」(笑)で、チャンデバ調整でf特も変化することが分かり、MyuさんとTomyさんのご指南を受けて、曲がりなりにも満足のいくパラメーターを見つけることができ、しかもf特だけでなく聴感上の出音の変化もちゃんと確認できたので、「これで、Pure 5ch を組んだらどんな音がするかな?」と、相変わらずの好奇心(笑)が抑えきれず(春休みでヒマもたっぷりあるし!)。
残念ながら、拙宅のSonetto VIII 5台(LCR+SLR)は「完全等距離配置」にはなっていない。LCRはLPから約2.9m、SLRは約1.3mの位置にある。これまではユニット間の位置(でっぱり)の差だけをパラメーター入力し、「あとはDirac Liveにお任せ」(笑)で、ch別のDelay(距離)と音圧を自動調節してもらっていた。ただ、今回、新たなパラメーターを「発見」したので、SLRにも新たな数値を入れる際に、「もしかして、これって、5chだけなら単純にLCRとの距離差を測定して足し算や引き算をすれば、手動でも調整できるのでは?」と気が付きまして。
で、早速手持ちのレーザー測定器でミリ単位でLPからの距離を測定し、それをDelay値に反映させ、さらに、チャンデバいじりのお陰で「距離が半分になると音圧は6㏈増える」、ことも勉強していたので(笑)、それも考慮して音圧のパラメーターもSLR用に調整した。
SWは、定在波などの問題があり、手動での調整が難しい(はっきり言って完全無響室でない限り、どんなゴッドハンドでもARTには絶対に勝てないのが明白)ため、今回はパスし、5.0chのシステムとした。SWを使わないのであれば、3Way 5ch をすべてデジタルチャンデバ・マルチアンプ駆動にしているメリットを活かせば、Dirac Liveを使わないでもかなりの補正ができると考えたからだ。
そもそも、Dirac Liveのお仕事は、1.f特の補正、2.位相の補正、3.定在波の抑制(ART)-なのだが、1は、今回の5台だけならチャンデバの調整で何とか誤魔化した(笑)し、2は、デジタルチャンデバはミリ単位でユニットを「動かせる」わけで、この目的はユニット間のタイムアライメントを揃えることにある。理論的に<各SPからの直接音だけで考えれば>(DLは複数SP と反射音まで計算したLPにおける位相合わせをするのがウリではあるが)タイムアライメントを合わせれば、位相もある程度は整う「はず」(笑)。3は、恐らく結構差が付くポイントだろうと想像できるが、まあSWという大物を外せばそこまで不快な音にはなるまい、と判断。
で、試行錯誤を経てなんとか完成させまして(チャンデバいじりは、どこかで見切りをつけないと「無限ループ」に陥る=汗)。客観的な評価は近々来ていただくお客様にお任せするとして、主観的には(笑)、「これは、5台ある、3Wayスピーカーを、すべてチャンデバ・マルチアンプ化している者しかできないテクニック」であるという点だけで、もう満足(笑)。
これまで一応、一通り手持ちの5chソフトを片っ端から聴いてみての結論を言えば、以前書いた、<Auro-Maticするとダメになるもの>はさらにそのダメさが際立つこととなった。チャンデバ・マルチアンプの、「一音一音が、とてもはっきりする」という2chで確認できていたメリットが、5chでも発揮されるようになったため、「ボーカルとかシンバルの音のくっきりした定位」、なんていうところに聴きどころがある、Pops/Rock系は、5chソフトでもAuro-Maticにすると、「せっかくの鋭い音・定位感が鈍る」(繰り返しますが、これはMaticであって「Auro-3D」ではありません。Auro-3DのNativeソフトであれば、2chや5chよりはるかに正確で立体的な定位感が得られます)。かつては、どちらかというと5chソフトなら大抵のものはAuro-Maticで再生した方が個人的には好みだったのだが、今回改めて聴きなおしてみて、「これは5ch Nativeで聴くべき!」と判定したソースがかなり増えた。もちろん、Auro-Maticにするとステージが広がるという<メリット?>は相変わらずあるのだが、この<メリット>がとても重要なジャンルの音楽では必ずしもないことがよりはっきりしたのだ。
Rockの典型的なテスト音源は、高校時代の思い出の(笑)、Pink Floydの天下の名作、『狂気』
P (これは、いくつかのSACD Mulitがでているが、この写真上にある、Analog Productionの盤が一番音がいい=アナログじゃないけど=笑。ちなみに、これはATMOS版(下)も出ているが、音質自体は私はSACDの方が好み)
Pops/JazzのMultiの名盤もいくつか聴き込んだ
写真にあるもの以外にもいろいろ聴いたが、Auro-Maticからはやや脱線するかもしれないが、Pops/Rock/Jazzだと、SWって無い方がいいのでは?と改めて思わされる曲が多かった(拙宅のシステムでは、Auro-Maticにすると必ずSWが参入するセッティングになっている)。ここで拙宅のシステムの名誉のために(笑)お断りしておきますが、一般に映画用をメインにしておられるお宅のSWの音を想像して「そりゃそうだろ、そんなこと、今頃気付いているのか、このご仁!」と思っている方がおられるかもしれないが(汗)、拙宅の低域はSWにある5つのユニットを含め、全部で33のウーファーユニットをDirac LiveのARTという技術が統合的にコントロールしていて(まだStormのAVアンプでしかARTは世に出ていないので、聴いたことがある人はとても少ないと思うし、日本のオーディオ雑誌ではほとんど取り上げられていないが)、一般的な「音楽にSW? 邪道でしょ、それ。低域が膨らんじゃって」というイメージとは正反対で、はっきり言って、その辺のフロア型2chシステムより、3台のSWが入っているウチのシステムの方がTightで解像度の高い音が超低域まで出ます(断言!証人多数!!!)。
でも、このクオリティの超低域ってPops/Rock/Jazzではほとんど不要で、むしろ、ここの解像度が上がることで恐らくエンジニアが意図せざる暗騒音が聞こえてしまって、不快な思いをすることが多々あるのです。Pops/Rock/JazzでLFEを使っているものは、たいてい「下品」な(笑)、映画のような効果音(EDMのような)が多く、普通の2ch録音はSWを入れることをエンジニアは想定していないはず。だからSWをいれてしまうと、「想定外」の音が出てくることが起きるようです。
いずれにせよ、数年前の印象に比して、拙宅のシステムアップは、<Maticはダメなソース>を増やす方向に働いたようです。
逆に、<Auro-Maticにするとイケてるソース>については、拙宅で聴く場合は、少し減ったような気がしています。
例えば、マーラーの『交響曲第8番』(いわゆる、『千人の交響曲』)。私は前にもどこかに書いたと思うが、実はマーラーは苦手(汗)で、あまり聴かないのだが、先日の入交さんのWOWOWのセミナーでこの曲が「Auro-3D」Native (22.2chだったかも?)で再生されていて、「・・・」と唸ったのです(いい意味で!)。Cmiyajiさんが、「これ、Auro-3Dで販売してくれないかなあ」とおっしゃっておられたが、全く同感。マーラーはキライですが、この曲のコーダだけは好きです!
さて、この『千人』であるが、先に書いた「Auro-Maticにイケてる音楽の条件」のほとんどを備えている曲です。
・大編成のオーケストラ
・オルガン、合唱・金管楽器(ビブラフォン含む。木管も悪くないですが、金属音の方がどうもAuro-Maticがより得意とするようです)
・教会などの高さのある(またはOpen Air)録音現場
有名な、ショルティの『千人』は2chなので、2chの大編成Classicは圧倒的にAuro-Maticに軍配があがることには変わりはないのだが、5chについては、拙宅のシステム変更を経て少し印象が変わり、オリジナルのPotentialに気づくこととなりました。
以前は、このような「Matic映え」する条件が揃った曲は、5chでも<圧倒的に>Auro-Maticの方が素敵に聴けたのだが、今回、手持ちの『千人』(キライ、と言いながら実は何枚も持っている。だって、<オフ会ご用達>ですもん、マーラーは・・・リクエストされた時用に=笑)の中で、特に比較的録音が新しく、優れていると思われる、ギルギエフのLSO Liveとトーマスのサンフランシスコ交響楽団(いずれも録音は2008年)のSACD MultiをNative 5ch とAuro-Maticで最後のCodaを聴き比べてみると・・・
5chでも、部屋の空間容量を十分に「音(と振動)」で満たす大音量で再生すると、なかなかの感動力! これ、以前の5ch再生だったらここまでボリュームを上げると「うるさく」感じて、聴くに耐えない感じだったのだが、ちゃんとパラメーターを調整した5chはうるささを感じない。これだけの音量にすると、Live録音ならではの位相情報の再現と部屋の中の反射音も盛大になるからだろうか、微妙なビブラートがかかったような音質と、拙宅の天井の高さをちゃんと感じさせる空間表現もなかなかのものだった。
もちろん、この曲はPops/Rock/Jazzとは違って、グランカッサやオルガンが入っているので、20Hz前後と思われる帯域の再生品質に於いては、言うまでもなくAuro-Matic(13ch+3SW+ART)の方が勝っている。しかし、Dirac Live無しのオリジナル5ch(SWも無し)の方が、張り詰めた緊張感のような部分でAuro-Maticを上回る空気感が感じられ、「こりゃ、一長一短、あるな」と今回初めて思った。
ただ、5ch Nativeの場合は、ある程度の音量を上げないとここまでの「実力」を感じられないので、集合住宅にお住まいの方や夜に音楽を聴く趣味のある方にとっては、(モンテモンテさんが指摘されているように)「音量が低くても、空間的な広がりを感じられるAuro-Maticに分がある」と思うだろう。
結論的に言って、5ch Nativeなら(2ch Nativeの場合は、どんなハイエンドでも大編成のClassic音源なら私の耳にはAuro-3D(Matic含む)には及ばない。入交さんがセミナーで指摘しておられたように、音源が2か所しかないための「マスキング効果」でどうしても音数=楽器=が消えるし、いくら部屋を工夫しても、2台のSPだけではホールの反射音を完全には再現できていないと感じる)、
1.五台とも同じSPを使っている
2.ITUの完全等距離配置になっていてLPで5台間の位相の狂いがない
3.設置環境(壁との距離・角度など)も5カ所が完全に同一条件で、LPにおける5台のSPから届く音の各f特に差がない
―というような条件を満たしたうえで(拙宅はデジタルチェンデバシステムを使ってある程度調整したが=それでも2.3の条件は完全には満たせていない=汗、それが無い場合は上記3つの物理的条件を整えるしかない)、さらに(笑)、
4.部屋にある程度の高さがあり(これは5chの場合、高所からの音は部屋の天井からの反射音に頼ることになるが、そこに十分な距離が無いと「残響音」として感じられないため)、
5.そしてある程度Liveである(Dead過ぎる部屋だと天井や壁からの反射が少なすぎて、ホール感が出せない)というルームアコースティックの状態において、
6.<大音量再生>ができる環境
であれば、AVアンプの世話(補正)になる必要もなく、5chソースを「Auro-Matic」で拡張する必要はないかもしれない(笑)。
ただ、ここまでの条件を揃えるのはスペース面、経済面、家庭環境面などで無理(典型的なのはウチの東京の書斎!)、というほとんどの(笑)方は、5chソースもAVアンプを使った「Auro-Matic」で聴くことをお勧めします!
最近のコメント